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コロナ対策、なぜ政府に不信感が増すのか〜高橋謙造・帝京大学大学院教授に聞く〜 第3回

田中 博

BCGワクチンに予防効果?

―― 国民がパニックを起こさないように「知らしむべからず」という考えが根本にあるような気がしてならない。国民は薄々気付いているので、余計に不安感を増幅させているのではないか。

あると思う。極端な言い方かもしれないが、役人たちの中には国民はクレーマーだと思って接している人もいる。本来はパブリックサーバントの義務として国民の声を真摯に受け止めて、政策を実行していかなければならないが、できていない。

前向きな話をするにしても伝え方が下手だ。安倍首相は先日の会見で、治療薬の話についても言及した。有効なワクチンか治療薬が出てこない限り希望は見えないという話だったが、開発に向けて、複数チャンネルで我々は頑張っていると明確に伝えるべきだった。それが「我々は頑張っている」という冗長な前置きのせいで、メッセージが薄まってしまった。出口がないトンネルのイメージができ上がってしまっている。

―― もしロックダウンが実施されたときに我々はどう行動すべきか。

外出を控えるというのが第一だが、第二にそれでも体を動かすことが重要だ。特に高齢者は家にこもって2週間も体動かさないと、フレイル(虚弱)な状況がかなり進行して、筋力が衰えてしまうと言われている。この2つをセットで伝えないといけない。

―― 気が早いかもしれないが、コロナが終息しても世界は今後も深刻な感染症に見舞われる可能性が高い。日本はどのような体制を整えておくべきか。

コロナが完全に落ち着いて、喉元すぎて熱さ忘れる前に動き出すべき。例えば、大きな組織再編が必要だ。感染症のみを扱う人間を育てて数を担保しないといけない。そこで決まったものは総理でも覆せないぐらいの権限を持たせた方がいい。政治家の役割は腹を括って国民を説得することだ。

イギリスは当初、人口の60%に免疫をつける「集団免疫」という考え方を打ち出したが、それは英国の医務総監が分析して出した提言だ。彼は公衆衛生の道をずっと歩んできた専門家であり、ジョンソン首相も逆らえない地位の立場でメッセージを出した。結果として厳しい批判を受けたが、長い目で見て感染爆発に引き続く医療崩壊を起こさないための最善策として戦略を考えた。

日本も中央政府レベルの専門組織を作り、常に地方と密に連絡を取り合って状況を理解し、いざというときにいかに地方を動かすか、的確に判断できるよう把握すべきだ。中央政府への強力な発言力をもたせたいが、省庁からの干渉、圧力からは自由でありたいため、出来れば独立した財源を持つ民間機関であるのが望ましいと思う。規模は、約50〜100人程度が望ましい。これ以上大きくなり、分業制になってしまうと結局誰が何を把握しているかわからなくなってしまう。

財務省などがカネで小賢しく操ろうとすると換骨奪胎になってしまうので、新たな省庁組織や独法にはすべきではない。国民を真剣に守るための組織なのだから、利権組織になってはだめだ。

人材に関しては、民間から広く募りプロを育成する。官僚の天下りの巣窟になっては元も子もないので、中央省庁で課長以上の経験者の出向は一切認めない。トップの定年は55歳にし、それ以上の年寄りの寄生は一切認めない。常に若い頭脳、思考力、情報公開力、海外への情報発信力を担保する。複数の民間企業から資金を募り、企業の利益などに忖度しなくても済むように資金使途を公開して透明性を持たせれば運営はできるはずだ。

―― 東南アジアは欧米に比べると感染者数が少ないのはなぜか。

可能性は二つある。検査能力が低いので表に出てきていないというのが一つ。ただ、タイなどは医療に関しては先進国なので今後どんなデータが出てくるのか注目している。

もう一つは欧米のニュースなどで話題になっているが、BCGワクチンの影響だ。本来BCGは結核のためのワクチンだが、どうもコロナウイルス関連の感染症にもかかりにくくなるようだ。東南アジアと違って、米国やイタリアやイギリス、フランスなどは近年結核が蔓延していない国なので、BCGは接種していない。その結果、感染拡大に差があるのではないかという見方だ。ドイツやオランダなどでは、医療関係者に対してBCGワクチンの治験を開始した。

一方、日本は1954年以降、乳児の頃にBCGを接種している。その恩恵を受けている可能性はある。ただ高齢者世代は受けていないので、最新の注意を払う必要があることに変わりはない。



高橋 謙造(たかはし けんぞう:帝京大学大学院 公衆衛生学研究科教授)
東京大学医学部医学科卒、小児科医、国際保健学修士、医学博士。専門分野は、国際地域保健学、母子保健学、感染症学。

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