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対談

公衆衛生の観点から、新型コロナ禍の今、記憶し、記録すべきこととは
高橋謙造×真山仁 対談03

真山 仁

次に繋げる〈新コロナモデル〉をいま議論し始めるべき

真山 私はいま、「新型コロナウイルスで大変だった経験をいずれ、忘れるだろうな」という嫌な予感を抱えています。日本はこの調子だと、欧米に比べれば比較的被害が少ないまま、ひどいパンデミックにならずに済むのではないか。そうしたら、感染が収まればすぐに東京五輪のことなど、別の話題に席巻されてしまい、きっと皆、今回のことをすべて忘れてしまうのではないかと思っています。

まだ「ポストコロナ」ではなく、コロナの最中ですからどうなるかわかりませんが、渦中にいるからこそ、この経験を忘れないために、公衆衛生の専門家として、「この点についてはしっかりと記録と記憶に刻んでおくべき」ということはありますか?

高橋 今回初めて、日本国内でも感染症が大流行して経済的なダメージを受けたのだから、そこで積み重ねてきた議論を、とにかくまとめておいて、いつでも取り出せるような形にしておかなければいけない。

真山 一般の国民としては、特に何を覚えておけばいいでしょうか。

高橋 いざとなったときにどう動くかですね。多くの人がマスクやトイレットペーパーを買いに走り品切れが続いたように、日本人はパニックを起こしやすいので、そうならないようにすべきです。必ず専門家たちが動いてくれるはずなので、自分で勝手に独り合点せずに、それを待ってもらうということでしょう。

真山 日本人はパニックを起こしやすいのに加えて、マスクをしていない人を非国民扱いして攻撃するところがありますね。100点の答えが常に欲しいのだと思う。

高橋 おっしゃる通りです。

真山 でも今回のコロナって、良くても90点ないくらい。マスクをしても罹るかもしれないし、ずっと家に閉じ籠もっていても完全に安全ではない。日本人は完璧を求めすぎる傾向があるので、リスクゼロしかダメだと思わないほうがいいですね。
政治家の対応についてはどう思われますか。

高橋 これまで政治の動きがあまり見えなかったので、批判してきませんでしたが、正直なところ、経済担当大臣の西村(康稔)さんが伝えていくのは、もう限界かなと。あとは、一国の首相が発言するしかないと思います。

政治家の頭をつくっていくのも、官僚の仕事のはず。総理の頭の中に、どれだけの言葉を入れるのか、きちんと優秀な官僚を集めて、絵を伝えなければいけないのではないかな、と思います。

真山 国が対策の遅れを叩かれている中で、面白い構図が出てきています。
それは、中央(国)と地方(都道府県)との差です。言うことが違ったり、対立構図が生まれていますが、一般人からしたら「誰が正しいのか、意見を1つにまとめてほしい」と思いがちです。どう思われますか。

高橋 他の国を見ていてもそうですね。中央と地方の差は、あっても仕方ないのかなと思います。なぜなら、地方の人間の方が現場感や緊迫感があるからです。

真山 ただ、オリンピック問題や都知事選、大阪都構想などの政治に、コロナ対策が利用されているのには嫌悪感がありました。そうした政治の別の意図が見えてしまったのに加えて、地方のトップは現場感を本当に知っているのかという疑問もあります。クラスターが起きることが恥だというスタンスも目立ちます。ウイルスの大感染が起こったときの、不安や恐怖といった問題点を、行政官があまり気にしていない気がする。

高橋 そうですね。「インフォデミック」と言われていますが、いわゆる情報の氾濫には気をつけなくてはいけませんが、何か手をつけているのかというと、何も見えてこない。

真山 この前の緊急事態宣言は1カ月で解除されましたが、解除する根拠は曖昧でした。ただ、未だに繁華街には昔の賑わいはない。

国民の生活の、行動の自由や人権を束縛して、恐怖を煽りながら〈自粛〉を強制する。そういうことを続ければ、多くの人が精神を病み、仕事や生活のやる気がなくなり、家庭ではDVが増えてしまうのは当然ですが、それは知らない、勝手にやってというような、無法地帯状態になりかねない危険性もあります。

高橋 DVの問題、子どもの虐待に関しても、公衆衛生の範疇を超えてしまっている問題かもしれませんが、COVID−19流行下で総合的に起きていることなのです。だから、前線で関わっている人間は、全部ひとまとまりの問題として見ています。そうした人たちの現場感が、上に伝わっていない仕組みがあって、それがすごく怖いなと感じています。
そういった問題に直面したときに、地域の住民たちをどう活用できるのかについては、伝わっていない。

真山 こういう非常事態だからこそ見えてきたのが、地域の医療や社会保障の脆弱性といった弱点ですね。ウイルス感染の不安と健康状態、地域の中で生きる意味などの問題が、一度に表出してしまった。現状、バランス良くうまくいっている例は少ないと思う。これは、地方自治体で解決すべきなのでしょうか。

高橋 ある程度の自助努力、実際には自助と互助が必要ですが、互助の部分においては、末端のグループが動いてくれないと困る。実際に今、動いて上手くいっているところもあります。子ども食堂なんかは、まさにその通りだと思うのですが。

真山 恐らく、そうした自発的な互助のシステムはいずれ、〈新コロナモデル〉と言われて後に残っていくと思います。阪神淡路大震災の時には、後に〈神戸モデル〉と言われるボランティアの仕組み決めが自発的に起こりました。今回の新型コロナ禍で、公衆衛生の視点で一種の〈モデル〉として伝えていかなければならないことを挙げるとしたら、どういったことだと思いますか?

高橋 いわゆる教訓的な点では、あれもこれもありますが、特措法において、国の権限と地方の権限が明確ではないことが色々と混乱を起こしています。

真山 法律をもっと実用的にすべきですね。名前も、新型ウイルス感染症特措法など分かりやすくして。あとは、権限委譲ですね。

高橋 新コロナモデルとしては、もう一つ絶対にやらなければいけないことがあります。それは、今回の色々な動きを全部リストとして書き出して、どこが上手くいって、どこが上手くいっていないのか確認する。ボトルネックをちゃんと絞り出してそれをどうしたら解消できるのか、というところまできちんと検証しなければいけない。そこまできちんとやっていく胆力が、日本の政治家や役人にあるかどうかです。

真山 リストアップするのは、メディアが行うといいですね。たぶん役人は、自分たちのことは棚に上げてしまいますから。
(次回へつづく 全4回)



高橋 謙造(たかはし けんぞう)
帝京大学大学院 公衆衛生学研究科教授
東京大学医学部医学科卒、小児科医、国際保健学修士、医学博士。専門分野は、国際地域保健学、母子保健学、感染症学。

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