「もし、2ヶ月の休暇が取れて、200万円の貯金があれば、子どもはアメリカで産む」
7月(※2023年)に、「ハゲタカ」シリーズの新作の取材に訪れた台湾で、富裕層のある女性から、そう聞かされた。
驚く私に、彼女は「こんな当然のことに、どうして驚くの?」と怪訝そうだった。
台湾は「明るく、美味しい。そして、今や世界一の半導体メーカー台湾積体電路製造(TSMC)を有するIT“大国”」なのだ。日本からすれば、羨ましい“国”にしか見えない。
しかし、「国際社会で国として認めてもらえない。大国の思惑に右往左往し、未来の設計なんていくらしても、不安が募るばかり。そんな不安を、子どもの世代に残したくない」のが、「アメリカで子どもを産みたい」理由だと言う。
万一有事が勃発しても、アメリカ生まれの子どもたちには、米国籍があるため避難させられる――。
だが、米国は国籍取得狙いの出産を認めておらず、妊婦と分かれば入国を拒否される場合が多いという。だから、出産は冬、おなかをコートで隠せる季節に集中するらしい。
この発言を、別の女性たちにもぶつけてみた。
異口同音で「休暇と貯金の条件が揃うなら、そうしたい」という答えばかりだった。
「実際に、中国が本気で武力侵攻してくるなんて思っている人は皆無ですよ。怖いのは、中国ではなく、未来への不安なんです」
子どもが祖国で産めない――。その現実を、どう捉え、日本として何ができるのか。重い宿題を与えられた。
●初出:月刊「商工会」2023年11月号
https://www.shokokai.or.jp/shokokai/gekkan/index.htm