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コラム

企業×株主・考 第2回
資源の再配分に欠かせない流動性の意味

槙野 尚

前回は、市場への参加によって世の中の「関心」が高まると書きました。今回、私が市場に寄せる期待として論じるのは「流動性」です。

投資家は株式の流動性が高いこと、つまり買いたいとき/売りたいときに取引ができるだけ市場に厚みがあることを求めます。一方で、企業からすると、流動性が高いと見知らぬところで株式が頻繁に売買され、株主が入れ替わる懸念もあるようです。

もし、市場に流動性がなかったらどうでしょうか。一度取得した株式を二度と譲渡できないかもしれないとなれば、リスクを取って株式投資をしようという人はいなくなってしまいます。株主はいざとなれば全損する前に譲渡することができるため、企業にはリスクマネーが供給されます。不確実性があるからこそ、流動性があることがリスクテイクを後押しします。

市場で売買・取引が起こるのは、自分が出したお金と同等以上の価値を得られると考えるからです。
例えば日本の家電メーカーが液晶パネルを作るよりも、台湾の電子部品メーカーが作った方が他の部材と組み合わせてより販路を拡大できるかもしれません。
日本の企業は一度始めた事業を中々手放そうとしません。それは企業の規模を小さくしたくない、一度雇った従業員に無責任なことをしたくないという思いとしては理解できますが、事業の視点から見ると必ずしも価値の最大化に繋がっているとは言えない場合があります。
事業をも市場における取引の対象とすることで、その事業の価値を最も高くできる人の手に渡ります。こうして最も優れた所有者(ベストオーナー)を探していくのが市場の仕組みです。市場の流動性が作用した結果、より有効活用される場所に資源が再配分されて、新陳代謝が働きます。

にもかかわらず、日本ではこうした視点がおざなりにされ、結果的に希少な資源が同じ企業や同じ産業に留め置かれるという、社会的な流動性の停滞を生んでしまいました。
本来ならば遅くとも、生産年齢人口が減少に転じる90年代後半までに、市場の流動性を高める整備に取り組むべきでした。戦後の、人口が増え続けていた時代は増える資源を配分するだけで良かったのですが、全体のパイが減少に転じると、新陳代謝が十分に働かなければ、新たに資源を必要とする主体に届けられないからです。

だから私は、市場の流動性を含めた機能の強化や市場に規律をもたらすガバナンスの改革は、社会の後発参入者である若い人や若い企業、そして現在十分な資源が届いていないマイノリティや弱者にこそ意味のある施策だと考えています。そういう人や企業がチャレンジできる、流動性ある市場をつくってゆきたいと考えています。

しかし、ただ市場に委ねるだけでは公正な資源配分が実現しないのはよく知られる通りです。そこで次回は市場の仕組みを修正する動きを考察してみたいと思います。



執筆者プロフィール:
槙野 尚(まきの なお)
株式アナリスト。資産運用会社勤務。東京大学法学部を卒業し、外資系投資銀行の株式調査部に入社。その後資産運用業界に転じ、企業との建設的対話(エンゲージメント)に注力した運用に従事。コーポレート・ガバナンスやディスクロージャーが専門で、金融庁の勉強会メンバーや、企業会計基準委員会の専門委員なども務める。2020年夏よりニューヨークの大学院に留学予定。

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