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白髪三千丈の国から(一)
〜中国にとってRCEPにインドが欠かせない理由

陳 言

米中の対立激化の余波は、日本を含めた世界各国に及んでいる。その中で、われわれに問われるのは、いかに多角的に情報を取捨選択するかである。日中のメディアで活躍する中国人のジャーナリストが、現地から「白髪三千丈の国」の視点をお伝えする。

2020年11月15日、8年間の交渉を経て東アジア地域包括的経済連携(RCEP)がなんとか合意に漕ぎつけた。中国はすでにASEAN10カ国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドと自由貿易協定(FTA)を結んでいる。RCEPで日本とも間接的にFTAで結ばれた。次は中日韓FTAの締結や、日本主導の環太平洋経済連携協定(TPP)への参加も射程に入れて交渉を早めていくと思われる。

日本のメディアが大いに注目していたのは、RCEPにインドが参加するかどうかであった。実は、中国政府も同様だった。インドとの交渉では譲歩できる分野ではすべて譲歩し、ほとんどすべてのインドの要望を満たそうと努力したが、最終的にインドはRCEPに署名しないこととなった。

興味深いのはインドの問題をめぐる中日の捉え方の違いだ。日本では「インドを引き入れられれば中国をけん制できる」というカウンターバランス論に関心が集まり、インドの不参加が決まって落胆した空気が広がった。同じ文脈で多くの中国人は、自分たちが突出した存在感を誇示することができると受け取り、インド不参加を歓迎した。ところが、中国政府は違う。純粋に経済問題として捉え、インドの参加を期待していたのだ。

実際、中国工業・情報化省傘下の中国電子産業発展研究院(CMIC)は11月17日に公表したレポートで「インドの不参加は中国のマクロ経済に対するRCEPのプラス効果を下げた」と分析している。

同レポートによると、2021年からスタートする中国の第14次五カ年計画期間中のGDP、輸入、輸出、投資、交易条件は、インドの加入がある場合とない場合を比べたらRCEPから得られる効果はそれぞれ0.01、0.15、0.12、0.01、0.03ポイントの差があると試算している。

対してインドは、RCEP加入で自国のGDPなどの経済指標に著しいプラス効果がある反面、交易条件を0.69ポイント悪化させると試算した。ここからも、インドが土壇場でRCEPを離脱した主な理由の一つが、「中国からの輸入急増が国内市場に影響を与える」と懸念したためと推測できる。中国はインドにとって最大の輸入超過国であり、中間製品でも最終消費財でもインド市場において強い競争力を持っているからだ。

一方、中国にとっては、インドのRCEP参加による影響は産業ごとに異なる。特に大きな利益の増大が見込めるのが、軽工業や石油化学工業、建築資材、非鉄金属、機械設備など。反面、農業や自動車・部品、電子機器、繊維・アパレルなどの産業は、インドとの競争が激しくなるため国内生産や輸出でのプラス効果は限定的だ。

それでも総じて、インドがRCEPに参加すれば中国のみならず地域全体の経済的メリットは甚大だと予測される。中印両国が加盟する巨大貿易圏が誕生すれば、多国間貿易推進という戦略的意義を持つRCEPの価値が際立つからだ。中国にとっても、地域の繁栄は自国の利益となってかえってくる。
今後、中国は「一帯一路」の枠組みの下で、インドと経済・貿易の相互交流を強めようとしているが、RCEPは両国の信頼を醸成する絶好の機会となったはずだ。インドのRCEP離脱は中国にとってけっして喜ばしいことではない。



【執筆者プロフィール】
陳言(CHEN Yan) チェン・ヤン
在中国ジャーナリスト。1998年慶応大学経済学研究科博士課程修了。大学教授を勤めてから2003年に中国に帰国。月刊『経済』、『中国新聞週刊』の主筆を経て、2010年からフリー。中国経済、日本経済、在中国日系企業を中心に取材活動をしている。

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