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コラム

自著を語る『米国の先進例に学ぶ 原子力検査制度のあり方』

近藤 寛子

課題の解決や社会的要請に応えようとして作られた制度が、時間が経つにつれて矛盾や軋轢が生じ、やがて終焉を迎えてしまう。代わりの新しい制度が作られても、新たな問題が起きれば、丁寧な検証を欠いたまま、再び制度改正が行われてしまう。私たちは、いったい、信頼できる制度を手にすることができるのか。手にするために、私たちは取り組めることがあるのだろうか。

『改革の過程から規制の進化を探る -原子力検査制度の変化と一貫性を両立させるコーナーストーンとは−』(ERC出版)は、「制度改革への関与」に焦点をあて、制度の本質に迫ろうとした本である。リサーチに挑んだ先は「米国原子力施設向け検査制度」だ。

原子力施設向け検査制度という、産業制度の中でもとりわけ一般になじみの薄い制度、しかも米国の制度に着目したのは、2020年4月から日本において、米国と同じ検査制度が始まることと関係している。

市民が、制度の背景や狙い、特徴を押さえようとすると、専門用語に対する知識不足が、物事を考えようという積極的な行動の妨げになってしまうことがある。そこで、本書では、専門用語というハードルを低くしようと新たな試みを行い、制度の時代的変遷を扱うことにした。制度の本場である米国で、関係者への徹底取材と公文書調査を敢行し、執筆を進めた。

米国規制機関の職員、被規制者である原子力事業者、市民活動家など、取材先は多岐にわたる。事業コンサルタントという著者の経験を生かした、海外での取材先開拓と入念な現状調査を積み重ねた。そして浮かび上がったのが、組織風土を変えてまで制度改革を断行しようとした規制機関、さらに、改革の渦に巻き込まれながらも、成功に向け関与するようになった、被規制者と市民の姿である。制度改革を引き起こした外的圧力、組織改革の限界と克服の過程が、制度の本質を考える手掛かりになることを切に願う。



紹介した本:
『改革の過程から規制の進化を探る -原子力検査制度の変化と一貫性を両立させるコーナーストーンとは−』近藤寛子著(ERC出版)

執筆者プロフィール:
近藤 寛子(こんどう ひろこ)
事業コンサルタント、リサーチャー。大学院修了後、メーカー、コンサルティングファーム勤務を経て、コンサルタントとして独立し、マトリクスKを設立。インクルーシブな子育てをサポートする(一社)ヨコハマプロジェクトを設立し代表を務める。東京大学大学院工学系研究科学術支援専門職員。
オフィシャルサイト http://matrix-k.org/