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ソウル訪問記3
為政者の都合に振り回されてはならない

真山 仁

ソウルでは、構想する物語の性質上、元検事や元刑事、元判事、弁護士、日韓のメディア関係者などに取材した。
彼らの誰一人からも敵対心を向けられたことはなかった。
一体、日本を憎悪している人は、どこにいるのだろうか?
「日本を強く非難するのは、政治家と限られた報道陣だけだ。しかも、彼らは本当に日本を憎んでいるのではなく、そういう姿勢を国民に見せることが重要だと考えている」とは、日本人特派員の弁だ。
「政治家やメディアは、日本が嫌いというよりも、神経質なぐらいに日本の動向を意識している。また、韓国でトラブルが起きると、日本でも似たような事例はないのか。どんな対処をしているかを、すぐに調べろ、と言われることが多い」とは韓国メディア関係者の話だ。
「日韓の仲が悪いというのは、幻想じゃないか。皆、日本の同業者とネットワークを持っているし、信頼関係もある。政治の案件で色々あるんだろうけど、両者の絆は深い」と元刑事は実例を挙げて説明してくれた。ここでは詳細は触れないが、確かに双方の絆は深いとしか思えないエピソードだった。
また、取材対象者の一部とは、ソウルで夜遅くまで痛飲した。互いが、自由に意見をぶつけ合い、時に衝突しても、その構図は、日本対韓国ではなく、個人的な立場から意見を戦わせたものだった。
そして、両国の間の誤解が生む弊害、さらに、なぜ日韓はもっと賢く互いと関係が結べないのだ、という話題を論じ合いもした。
そういったやりとりの中で、「韓国人には、日本人コンプレックスのようなものがある。なぜ、韓国人がやってもうまくいかないことが、日本人だと成功するのか」と何度か聞かれた。
だが、逆の例もある。しかし、日本人はそれを気にしないし、韓国人も自分たちが成功したことについては、気にしていないようだった。
結局は、妙なこだわりや先入観、さらに言えば偏見が強すぎて、それが固定観念となり、誤解を生んでしまっていた。あるいは、両国ともに、最も国が豊かだった時代からピークアウトして、経済や社会に不安が生まれると、その目を逸らそうと、為政者やメディア、文化人などが、外国人を非難するという構図が、頻繁に起きるようになった。
それが、過去の様々ないきさつも絡み合って悪感情を生んでしまったのではないかと思えるようになった。

これは、外国人相手に限らず、最後は互いに膝をつき合わせて話をし、何なら酒を酌み交わすことで、正しい理解が生まれるものだ。ただ、この「理解」を、最近の日本人は誤解している。
理解とは、好きになるという意味でも、両者が同じ価値観であると確認しあうという意味でもない。
それぞれ異なる意見があり、その主張を理解した上で、互いを尊重するという意味だ。日本人同士ですら、分かり合えない人は大勢いる。ましてや、外国人相手となると同意できない価値観があって当然なのだ。
しかし、それでもその異なる価値観を踏まえることができれば、双方に友好は生まれるものだと私は信じている。

日韓に、不幸な歴史があるのは事実だ。
また、両国の現在の政治状況によって、感情的な衝突を誘発させて、政治不信を国外に向けてしまうという愚行は、ずっと続いている。
何より、政治などという建前の集団に、両国の問題解決を任せず、民間で様々な相互理解の機会と交流を持てばいい。
隣国と穏やかな関係を構築する、というのが大人の外交だと思う。
両者には、異なる長所と欠点があり、異なる点より類似点の方が遙かに多い。だからこそ、一度こじれると面倒なのだが、衝突すればするほど、その裏で高笑いする者がいるということに、我々はそろそろ気づくべきだ。

そういう意味でも、今、一番問題が過熱しているソウルに、改めて出かけたいと思う。
そして、メディアが伝えるような両国間のいがみ合いが、実際にどこで起きているのか。あるいは、我々に足りないものは何かを、しっかり見極めたい。
決して、きれい事を言いたいからではない。
諍いから得るものは、何もないからだ。
特に為政者のつまらない権力の座への妄執のために、両国民が振り回されるような愚行はやめよう。
そう訴えるためにも、もう一度、ソウルを訪れなければならない。

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