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コロナ対策、なぜ政府に不信感が増すのか〜高橋謙造・帝京大学大学院教授に聞く〜 第2回

田中 博

厚労省内で「感染症のプロ」の養成を怠ったツケ

―― これまでの迷走は、データを集めるのは国立感染症研究所であっても、それを基に判断するのは我々だという意識が、厚労省に強かったから起きたのではないか。

1999年から2001年のはしかの大流行の際には、国立感染症研究所が政策的、戦略的な部分を担い、MRワクチンの2回接種がスタンダードになる成果を挙げた。一方、厚労省は政策を打ち出すことに及び腰だった。以後も、予防接種関連では国立感染症研究所はデータに基づいた良い仕事をしていると思う。しかし、それを受け取った省庁側が適切に判断出来ていないようだ。

つい先日までコロナ対策の骨格を作っていたと思われる担当者の中には、地方の病院の臨床医なども招聘されていた。感染症診療、地域医療のプロであり、現場感覚をしっかりと持った人材で頼もしかったが、なぜこう言った人材が招聘される必要があったのか、逆にいうと厚労省の中にプロが養成されていない。

しかも、厚労省は2年ごとにポストが代わり、全く別の部署担当だった者が感染症の分野に異動したりする。一から学んでどんなに早くても慣れるまでには3カ月や半年はかかる。この4月の人事異動で当事者が何人か抜けていないか心配だ。

―― 厚労省には医系技官もいるが、彼らも意思決定には携わっていないのか。

ある程度やっているが、一人ひとりに現場感覚があるわけではない。優等生的なことはできても、現場に即して判断できるかは疑問だ。

さらに問題なのは、国の中で、厚労省だけでなく司令塔が幾つにも分かれていることだ。専門家会議を中心にプロフェッショナルな意見を出してもらい、それを受けて1つの方針の下動いていくべきだが、突然、安倍首相が全国の小中学校の休校を決めたりしている。

―― 医療現場で受け入れのベッド数が足りないなどさまざまな問題に直面しているが、検討していますという歯切れの悪い返答ばかりで、かえって不安になる。切迫している状況と訴えるならば、とっくに対策を決めてあって当然のように思うが。

そう思う。動きが遅すぎる。これが官僚機構の弱さだ。医系技官になって最初に学ぶのは、どう各関係者間を調整していくかという技術だ。本質的な部分に関われるスキルを身につけるには時間がかかる。

政治家は、「今検討しています」と言えば国民が安心すると勘違いしている。問題を先送りにされても、国民は安心しない。今最も不満かつ不安に感じているのは、「現在、試みております」と言ってその場だけの卓話で終わっている点にある。

その後どうしたかという話が一切聞かれない。情報を出している以上、試みた結果どうなったのか、きちんと報告があってしかるべきだ。プロセスを見せないのが、一番の瑕疵であると思う。

―― 地域によっては、数日のうちに外出が厳しく制限されることになるかもしれない。そうした状況では医療崩壊が起きるのではないか。

今の状況だとかなり強い懸念はある。すべての重症化した患者を全員救うことは難しいかもしれない。現在の医療レベルや機材の関係からいえば、全員にエクモ(体外式膜型人工肺)や人工呼吸器を提供できないかもしれない。となったら誰を優先するのかという話になる。

役人たちは、省庁の出口で待ち構えられてインタビューされるのが嫌だから、恐らく、内部決定しておき表には出さない。一部の病院等には文書を送って箝口令を敷く。文書が届いた組織はある程度目安をもって対策を組む事ができるが、他には伝わらないとすると、それで割を食うのは、現場の医者たちだ。

―― 今の段階では、国民に伝えるべきメッセージの順番はどうあるべきか。

まず、重症者の医療の担保が最大の優先事項だと伝えるべきだ。

第二は感染拡大を抑えるよう促すこと。ロックダウンの話が広がっているが、一時期は感染を抑えることができるかもしれないが、解除したら再び感染が広がる。本質的には、ワクチンや治療薬が開発され、国民の元に届かないと、根本的な解決には繋がらない。
本来ならば「いついつまで」と期限を付けるのが、理想的なメッセージだ。しかし、現状はそんなに簡単ではない。

なので第三には、長期になるが是非とも協力をお願いしますと発信し、同意を得ておく必要がある。観光業などの痛手は予測がつくので、どのように補償をするかまで伝えないと、活動を抑えきれない。現状はメッセージを伝える順番に、もやがかかっているような感じだ。
(次回へつづく 全3回)



高橋 謙造(たかはし けんぞう:帝京大学大学院 公衆衛生学研究科教授)
東京大学医学部医学科卒、小児科医、国際保健学修士、医学博士。専門分野は、国際地域保健学、母子保健学、感染症学。

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