2024年7月24日に開催された、日本地熱協会主催の「令和6年度 第2回情報連絡会」で行われた、「地熱をブレイクスルーするために」と題した、真山仁の特別講演の抄録、後編をお届けする。
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いま、地熱業界は2011年の震災後よりも追い風が吹いていると感じます。当時は突然のことで、準備も体制もできていなかった。それから10数年経ち、震災前から計画されていた発電所が営業を始めたり、実地調査の成功も現れてきました。この10年ほどはいわばアイドリングしてきたのを、ようやくいまふかすタイミングが来ています。
世界中でムーブメントとしてSDGs、カーボンニュートラルが進められているなか、若い世代に、日本におけるエネルギーの切り札は「地熱」だと言えるチャンスがきているのです。
エネ庁は、火力発電を止めるための代案として地熱発電に力を入れようとしており、申請があれば予算をつけたり認可する準備はできていると言っています。
林野庁も、試掘のために保安林を借りる期間を、いまは5年しか借りられず本掘に届かないため、期間延長するなら相談に応じると言っています。以前は、それが門前払いされていたそうですが、エネルギー安全保障の立場から、火力発電の代替となる地熱発電が重視されている今は、違うと言います。
地権者が反対するのが問題になると言われますが、国有林や国有地を使えばいい。ご要望があれば、ご相談しますと、林野庁は言っています。
こうなってくると、大事なのは開発を担っている皆さんの実行力です。
国や政治家も、本気でやるなら協力すると言っている。
これからは、開発を進めるとともに、知らない、関係ない人達も巻き込んで、地熱がいかに大事か伝えていく活動もしていきましょう。
東京にいると地熱に縁が薄いですが、テレビや新聞の記者の中には、九州や東北の地方支局で過ごした経験から、地熱に関心の高い人もいます。
点が繋がらない理由は、場がなくて、情報が外に出ないから。情報を広く共有するのが大事です。
世の中の為になるビジネスですから、興味を持ってくれる人が増えれば、皆さんのモチベーションも上がります。
業界の中にいると、チャンスをつかむ方法が分からなくなりがち。日本人は目立つのが苦手ですし、関係者内の“常識”が妨害してしまうこともあります。
関係者のなかだけでなく、第三者の視点も入れて、点で存在する想いを、線でつなげて、さらに面にして、ブームとして動くよう立体になるまで動きつづけると状況は変わるはずです。
地熱発電は、原発や火力発電に比べると規模が小さく、試掘から運開までのリードタイムが長く、儲からないと思われます。燃料不要なので、長い目でみたら儲かるのですが、企業は10年、20年待てない。
しかし、大学生がクラウドファンディング(クラファン)で1億円集める時代です。工夫をすれば資金も集まるのではないでしょうか。
クラファンは「いいことする企業」にお金が集まるので、足元に眠るクリーンなエネルギーを発電するための施設に資金を!などと訴えるのです。
また、長い準備期間のうちの大半は、法律のチェックですから、そこを短くしてもらいましょう。2050年というリミットがあるのです。
電気がなければ、今の生活はできなくなります。このまま地熱を進めないと、そうなる、だから時間を短縮してほしいとアピールしましょう。
商社や銀行が資金を出してくれないのであれば、なぜ出してもらえないかを聞いて、改善する方法を皆で考える。最初から諦めてしまいがちなところを、情報や現状をオープンにして、ガラス張りにして、みんなを巻き込んで進めていくのはひとつの手だと思います。
環境省が、環境を守るという正義の元に地熱発電の開発に難色を示すというハードルもあると聞きます。ただ、地球全体の環境、カーボンニュートラルの視点からは、化石燃料を使わないのが地球のため、だから地熱発電にシフトをするべきだと、いまは言えます。
そういう交渉の現場には、地熱インターンシップとして学生を連れて行くといいです。国のやっていること、矛盾を、純粋な若い子に見せて、SNSで呟いてもらえばいい。
地熱関係者が発信しても伝わらないものが、SNSなど部外者の目と声を有効につかうと波及力があります。
スウェーデンのグレタさんも、ひとりで環境活動をやり始めました。あのムーブメントが起きたのは、彼女が子どもだったからです。今、社会を変革できる力を持っているのは、若い世代なのです。
やりもしないで、やってもダメと言わないようにしましょう。
一部では、外資の参入もあります。外国の政府系のファンドが投資をすることへの懸念もありますが、基本的にはOECDの縛りがあって、国家のインフラや軍事、国民の生命に関することに外国の投資家が投資できる配分には決まりごとがあり、それ以上は買えないはず。
また、残念ですが、地熱発電のように長いスパンが必要なものは旨味が少ないので、外資は買わないですね。
ただ、ここは良し悪しで、外資が入ったほうがうまくいくこともあります。
新しい発想、ニューカマーがないのは地熱の低調な原因でもあるので、刺激になるなら、ある程度歓迎したほうがいいのではないかと、個人的には思います。
もし外資がひどいことをしたら、すぐにメディアに訴えればいい。それくらいの気構えで、地熱発電全体の盛り上がりを目指したほうがいいと思います。
プロフィール:
柳田京子
真山仁事務所スタッフ。フリーランスの編集・ライター。