真山メディア
EAGLE’s ANGLE, BEE’s ANGLE

テーマタグ

舞台裏

地熱沸騰 -6-
超臨界地熱発電に託された
ニュージーランドの未来

柳田 京子

真山仁の小説『ブレイク』(KADOKAWA、2023年刊)で、“夢の新技術”として描かれた「超臨界地熱発電」は、現実世界でも開発の行方が注目されている、次世代の地熱発電技術だ。生産井1本あたりの蒸気生産能力は、従来型地熱発電の数倍と推定されている。

従来の地熱発電では、地下3kmほどに溜まった200〜300℃の熱水層(雨水などに由来する)を目指して掘削しているが、超臨界地熱発電の場合、さらに地下深く5〜6km辺りの、マグマ溜まりとも言われる400〜500℃の流体層まで掘削する必要がある。

当然ながら、従来の掘削技術ではうまくいかず、高温と長距離という難題を克服できるような、新たな素材や技術の開発をめざして、研究者たちは試行錯誤している。

技術的な問題がクリアしたとしても、実際に掘削するには莫大な資金が必要となる。さらに、発電に有効な場所を探すのも、確定して開発に着手するにも、時間とお金がかかる。国家として重要なプロジェクトだと捉えない限り、実現の道筋はなかなか見えてこない。

日本同様に火山国、山国であるニュージーランドは、地熱発電の開発に熱心だ。イタリアに次いで世界で2番目に地熱発電を行った国でもある。地熱資源量は日本の6分の1程度だが、地熱発電の総設備容量、地熱発電総量は日本よりも遥かに多い。

2024年11月、ニュージーランド政府は、将来のエネルギー需要の確保に重要な役目を果たすとみられる超臨界地熱技術の可能性を探るため、最大6000万NZドル(約55億円)を拠出すると発表した。
https://www.beehive.govt.nz/release/government-exploring-new-energy-source

まずは、資金のうち500万ドルが、タウポ火山帯の探査用深井戸を掘削するための設計・作業の費用に充てられる。

「ニュージーランドは今後数十年かけて、再生可能エネルギーへの移行を進めており、地熱エネルギーの利用が増えればCO2排出量が減り、ガスや石炭などの燃料への依存も減るだろう」とシェーン・ジョーンズ地方開発大臣は言う。

科学・イノベーション・技術大臣のジュディス・コリンズ氏も、このプロジェクトは長期的な提案だとしたうえで、政府は2025年末までに最初の調査井掘削の開始を決定する可能性があり、2035〜40年の間での実現に向けた展望について期待を述べている。

未来のエネルギー確保のため、ニュージーランドは超臨界地熱発電開発に本腰を入れ、試掘の準備に入ったようだ。

日本でも2040〜50年の事業化を目指して、岩手県葛根田など4地域を候補地として進められている超臨界地熱発電の研究・開発。果たしてニュージーランドの挑戦が追い風となるのか。


【参考資料】
「井戸1本で数万kW級以上を発電、NEDOが挑む「超臨界地熱資源開発」の現在地」(ニュースイッチ、2024年1月2日)
https://newswitch.jp/p/39869

「地熱発電導入拡大研究開発 2021年度〜2025年度(中間評価)」(NEDO、2023年5月30日)
https://www.nedo.go.jp/content/100961248.pdf





プロフィール:
柳田京子
真山仁事務所スタッフ。フリーランスの編集・ライター。

あわせて読みたい