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発言

沈思熟考(13)
「知っている」リスクと「知らない」自由

真山 仁

趣味をビジネスにするのは、好きなことを仕事にできるから幸せだと考えている人が多い。他ならぬ私も、小説好きが高じて小説家になった。だが、その考えには否定的だ。

そもそも趣味と仕事は、向き合い方が違う。
趣味はのめり込めばのめり込むほど、楽しくなり、技術が上達すれば、エキスパートや「達人」と呼ばれるようになる。
だが、ビジネスで「のめり込む」のは、リスクが高い。視野狭窄になり、その上、原価意識がなくなる。

あるゴルフ場経営者が、「故あってビジネスを引き継いだが、自分はそれまでゴルフをした経験が、皆無で。シングルプレーヤーで、ゴルフ知識に満ちた経営者には歯が立たない」と嘆いていた。
私は「ビジネスに重要なのは、距離感ですよ。のめり込むほどの知識は、経営判断を誤らせます」と答えた。

好きなことは、夢中になるものだ。夢中とは、後先を省みずのめり込む状態で、満足を得るためには、カネも時間もいくらでも費やしてしまう。
私自身、デビューした頃は、そういう傾向があった。それでは小説家稼業としては、採算が取れない。その上、テーマや人物造形に重要な客観性が失われる。

逆に、門外漢であれば、こだわりすぎや予算膨張に、歯止めがきく。なぜなら「そこまでやる意味があるのか」という常識や理性が働くからだ。
尤も、知識があるに超したことはない。しかし、その知識は、適度な距離感を保ち、試行錯誤を繰り返した上での「知見」であるのが望ましい気がする。

自分で書いていて「傑作!」と思った作品ほど、周囲の評価との差があり売れなかった。また、改めて読み返すと、「想いが強すぎて、読んでいて辛い」場合もあった。
何事においても、距離感を保ちながら、程よく楽しむスタンスが、成功をもたらすようだ。



●初出:月刊「商工会」2025年7月号 
https://www.shokokai.or.jp/shokokai/gekkan/index.htm

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