9月23日、米国ニューヨークの国連温暖化対策サミットで演説した、スウェーデンの十六歳の活動家グレタ・トゥーンベリさんの訴えが波紋を呼んでいる。
トゥーンベリさんは、地球温暖化に対して強い危機感を持ち、大人たちに対応を任せていたら、地球は破滅すると感じ、「気候のための学校ストライキ」という活動を始めた。その呼びかけは、世界中に波及し、彼女のかけ声で、世界で同時に数百万人以上の若者が呼応して「地球温暖化反対!」のデモや抗議活動を行った。
そのトゥーンベリさんが、国連という世界政治を議論する場に登場し、出席者に厳しい口調で大人の欺瞞と無責任を訴えたのだ。
演説の全文については、以下のサイトを見て戴きたい。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190924/k10012095931000.html
地球は、大量絶滅の危機に瀕しているのに、「あなた方が話すことは、お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。よく、そんなことが言えますね」と断じる。
そして、各国の政府や企業の温暖化対策についての甘さを突いた上で、こう続けた。
「もしあなた方が私たちを裏切ることを選ぶなら、私は言います。『あなたたちを絶対に許さない』と」
この力強い訴えは、感嘆に値する。
そして、ここまで10代の若者に不信感を抱かせ、怒りをぶつけられる“大人たち”は皆、自らの行為に責任を持たなければならない。
現在は、未来をよりよくするためにあるのだから。
だが、それと同時に、彼女の発想に違和感も抱く。
トゥーンベリさんにとっての正義とは、「地球を温暖化から防ぐ」ことだろう。そこまでは、全く異論ない。だが、その程度のことは大人たちは皆分かっている。問題はどうやって止めるかだ。
彼女は、この演説で具体的な対策について言及していないようだが、現状でCO²を削減するためには化石燃料による発電やガソリン車を徹底的に減らすしか方法はない。
ただ、それらの代替エネルギーをどうするのだろう。「ガソリン車をやめて、電気自動車にすれば、車から排出されるCO²は、かなり軽減される」というのが、温暖化対策推進派の主張だ。
だが、その電気はどうやって発電するのだろう。
自動車を電気で動かしても、その電気を化石燃料で発電していたら、CO²はさして減らない。
彼女の怒りの根源は、未来が今より酷くなると分かっていることを、大人が平然と黙認していることについてだろう。その怒りは正しい。
だが、何かを反対し、否定しても、未来は明るくならない。
「●●反対!」という叫びは、一見勇ましいし、インパクトもあるように響く。
だが、反対することは容易だ。重要なのは、「では、どうするのか」だろう。
CO²を排出する化石燃料の使用をストップしたいのであれば、その代替エネルギーを提案することだ。
電気自動車推進のためには、発電のエネルギー源から可能な限り化石燃料依存を脱する必要がある。
温暖化対策推進派は、それを風力発電や太陽光発電に委ねようとしている。だが、24時間365日高品質な電力を供給することは無理だ。高度にハイテク技術が進んだ世界では、電力が安定供給されなければ、社会も経済も機能しない。したがって、安定供給が永続的に維持できるエネルギー源が必要になる。
どうしても、風力や太陽光で、代替したいなら、大容量の電池を開発するしかない。
あるいは、日本ならば、地熱発電という方法もあるが、火山がない国では、難しい。
すると、切り札は、原発しかなくなる。
温暖化反対!とは、原発推進!とならざるを得ないのが、現在のエネルギー事情なのだ。トゥーンベリさんは、それを知っているのだろうか。
もし知らず、その上、原発には反対だと考えていた場合、結果的に彼女は世界中に自分が認めたくない発電を牽引することになる。
いくら彼女が世界中の人々から共感を呼んでいるとはいえ、まだ十六歳なのだ。そんな人物を、国連の場で演説させる――。私のような者は、「きっと背後には原発推進者がいるんだろうな」と邪推してしまう。
彼女の怒りには大いに共感する。
だが、何かを批判する時は、気をつける必要がある。
知らない間に、悪い大人に利用されるかも知れないからだ。
トゥーンベリさん、あなたが訴えなければならないのは、大容量電池の開発推進!あるいは、地熱発電をもっと活用して!ではないのだろうか。