北海道の東部に位置する、弟子屈町。「てしかがちょう」と読める人はどれくらいいるだろうか。
摩周(ましゅう)湖、屈斜路(くっしゃろ)湖、川湯温泉といった観光地があり、風光明媚な景勝地であるとともに、豊富な地熱資源をもち、温泉熱や地熱を活用した事業も熱心に進められている。
2017年3月に、弟子屈町から真山に講演の依頼があった。地熱に対する町民の認識を深めるために、僭越ながら真山が話をしに行ったのだが、私はそのときにはじめて、「てしかが」と読めるようになった。
弟子屈では、昭和50年代から温泉給湯や温泉熱を利用した暖房が整備され、日常的に地熱が活用されてきた。
湖畔の砂浜を掘ったらお湯が出るところがあるほど、地熱資源が豊かだ。厳寒期でも温泉熱のおかげで凍らないため、シベリアから渡ってきたオオハクチョウが群れをなして休憩する。
その地熱資源を活用して、さらにエネルギー事業として開発を進めるためには、やはり地元住民の理解を得る必要があり、いまも年に数回の協議会を開催している。
地熱発電と自然・生活環境の調和、共生はつねに課題となる。
とくに日本では、地熱資源が眠るエリアの多くが、国立公園内や温泉地に存在するからだ。
「地熱発電所ができると自然や景色が損なわれるのではないか」「地熱発電に使ったら、温泉が涸れてしまうんじゃないか」と懸念され反対に遭うことが多い。
そうしたデメリットと考えられていることのいくつかは、思い込みであり対処が可能であることや、メリットの大きさを伝えたくて、真山は地熱関係の講演会であれば、どこにでも出掛けていく。
弟子屈では、講演の翌日に地熱を活用したさまざまな取り組みを見せてもらった。そのなかに、マンゴー栽培があったときいて、驚いた。マンゴーと言えば南国の果物だ。沖縄や九州で作られた国産マンゴーは高級品でもある。それが北海道で……?
「摩周湖の夕日」と呼ばれるそのマンゴーは、温泉熱を使ったハウス栽培で、秋冬に収穫されている。
弟子屈町は2017年に、地熱資源を活用した「弟子屈ジオ・エネルギー事業」のマスタープランを作成。北海道の支援事業を受けて、地元企業とも連携したビジネスモデルのあり方を探っている。
具体的には、バイナリ発電事業の推進に係る各種調査解析などだが、当初予定の5年経てもまだ道半ばであり、地熱事業を含めたゼロカーボンの実現に向けた取り組みを推進するため、北海道立総合研究機構との連携協定を(2027年まで)5年の期間延長を行っている。
一方で、JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)の助成事業を活用して、地熱資源量の調査を実施。2022年には、2000m級の井戸掘削で300℃を超える熱資源を確認し、温泉熱の利用だけではなく、地熱発電の実現性が高いという結果が出ている。
総人口約6500人の小さな町での、地球から授かった恵みを存分に生かそうとする取り組みは、まだまだ続く。
●参考資料●
【弟子屈町HP】
https://www.town.teshikaga.hokkaido.jp/kurashi/soshikiichiran/kigyouyuuchi/geothermal/2631.html
https://www.masyuko.or.jp/enjoy/sightseeing/spot/sunayu
https://www.town.teshikaga.hokkaido.jp/material/files/group/9/geo_master_plan.pdf
【極寒完熟マンゴー 摩周湖の夕日】
https://www.farm-people.jp
【北海道農政事務所HP】
https://www.maff.go.jp/hokkaido/kushiro/douga/manngo_.html
【JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)HP】
https://mykoho.jp/article/北海道弟子屈町/広報てしかが-2023年11月号/令和4年度-湯沼―アトサヌプリ-地域地熱発電の資/】
プロフィール:
柳田京子
真山仁事務所スタッフ。フリーランスの編集・ライター。