築城する立地を選定したら、次に重要なのはどのようにして防御施設を配置するかです。
防御施設の目的は、敵兵を効率的に無力化するとともに、少しでも長い間、敵に抵抗することで、城の中核部分(本丸・主郭等の城の司令部の所在地)への侵入を遅らせることにあります。
そのため、立地が他の勢力から自らの領地をどう守るかというマクロ的な視点で選定されるのに対し、防御施設は防御力を高めるためミクロ的な視点で、城のパーツを配置します。
防御施設は多種多様ですが、今回は6回に分けて、以下を詳しく説明します。
① 堀(ほり)・堀切(ほりきり)
② 土塁(どるい)・切岸(きりぎし)
③ 石垣(いしがき)
④ 郭/曲輪(くるわ)
⑤ 虎口(こぐち)・桝形(ますがた)・馬出(うまだし)
⑥ 天守(てんしゅ)・櫓(やぐら
まずは、堀・堀切です。
等高線に対して平行なのが横堀、垂直なのが竪堀です。一般に「お堀」と言ったときに想像される江戸城や大阪城のものは、大体横堀です。一方、竪堀は、山や丘の上の城で見られ、麓から見ると山に向かって登っていくように掘られています。
堀の機能は、城への侵入ルートを妨害したり、ルートを限定して防御しやすくすることにあります。城の外周に大きな横堀があれば、わざわざそこを渡って城に入らず、橋を渡って入ろうとするでしょう。竪堀は、山や丘に取りついた敵が、登りやすいところを探して横伝いに(等高線と平行に)移動できないようにしています。図で示すと以下のようになります。
また、堀に水がたたえられているものを水堀、水がないものを空堀と呼びます。竪堀は当然、全て空堀ですし、城内の高低差が大きい中世山城には通常空堀しかありません。
一方、平地に所在する近代城郭の多くは、外周に水堀を設けています。また、堀がなかったとしても、周囲に沼沢地や低湿地があり、事実上堀のような機能をはたしていた城も多いです。
堀は、底の形状に応じた呼称が付けられていますが、ここでは「障子堀」を紹介します。水のない横堀は、いったん敵が堀の底に降りると、平坦な堀の底を自由に行き来して、取りつきやすい箇所を探すことが可能になります。これを防ぐために、堀の底の中に仕切りを作って、自由に移動するのを妨ぐ手法が発明されました。上から見下ろすと障子のように見えるので、障子堀と呼ばれています。
また、「堀切」は堀に包含される概念で、特に山や丘の上に設けられる横堀を指します。正確な由来は分かりませんが、山や丘の尾根線を縦に断ち切っているように見えるので、そう呼ばれているのだろうと思われます。郭と郭を隔てるところに設けられることが一般的で、堀切(尾根線における横堀)がそのまま麓に向けて降りていく竪堀と連続していることが多く見られます。
余談ですが、私は城の防御設備の中でも堀切が最も好きです。稲村城(千葉県館山市)は初めて訪問した中世山城ですが、ここで見つけた美しい堀切に魅入られてしまい、中世山城を多く回るようになりました。
また、これまでに訪れた堀切の中で最も美しいと感じたのは、高天神城(静岡県掛川市)の堀切です。
〈参照文献〉
『城のつくり方図典』三浦正幸著、小学館、2005年
〈執筆者プロフィール〉
日野真太郎(ひの しんたろう)
弁護士。1985年福岡県生まれ。幼少時を中華人民共和国北京市で過ごし、東京大学法学部、同大学法科大学院、滋賀県大津市での司法修習を経て、2012年より東京で弁護士として執務。企業間紛争解決、中華圏を中心とする国際法務全般及びスタートアップ法務全般を取り扱う。趣味は城巡りを中心とする旅行で、全国47都道府県を訪問済。好きな歴史上の人物は三好長慶と唐の太宗。