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コラム

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『オフィシャル・シークレット』

真山 仁

イラクには、大量破壊兵器が存在し、欧米を狙っている――。それが、2003年、米英を中心とした多国籍軍がイラクを攻撃した理由だった。
だが、後にこの情報は誤りであり、その事実をCIAも把握していたことが判明する。つまり、アメリカは火のないところに煙を立ててイラクに壮絶な攻撃を行い、約10万人のイラク人を殺したのだ。
アメリカでは、この悪魔的な欺瞞行為を糾弾する映画が何本も製作されたが、さらに英国が積極的に協力していたことを伝える作品が生まれた。
個人の正義は、国家の正義を打破すべきなのか……。

米英には、国家防衛のために、偵察衛星や電子機器を用いた国内外の情報収集・暗号解読(シギント)を行っている情報機関がある。アメリカの国家安全保障局(NSA)は、同盟国の首脳すら平気で盗聴することでも有名だが、英国の政府通信本部(GCHQ)は、第二次世界大戦でナチスドイツの暗号通信「エニグマ」を解読した功績で知られている。現在も、シギント活動は続けており、NSAと密接な関係にある。

映画『オフィシャル・シークレット』はこのGCHQのある職員によって起こされた実話を元に製作されている。
イラクに戦争を仕掛けたいアメリカは、国連のお墨付き(つまり国連軍として戦う)が欲しかった。国連加盟国の間からは、「本当にイラクに、大量破壊兵器があるのか」という疑問が上がり、常任理事国からも反対の声が止まない。そこで、アメリカはイギリスに、ある謀略に協力するよう要請する。それを知ったGCHQの女性職員(キーラ・ナイトレイ)が、義憤に駆られ、この情報をメディアにリークするのだ。

英国の保守系の新聞社が、そのリークを掲載。社会は騒然となる。当然、政府は密告者捜しを始める。仲間たちが厳しい尋問を受けているのを見て耐えられず、告発者は自ら名乗り出て、政府は彼女を逮捕・起訴する。一方、正義は告発者にあるとして、人権弁護士が立ち上がり、果敢に政府に挑んでいくのだが……。

映画の見所は、個人の正義と組織の正義の狭間に立った時、個人の正義をどこまで貫けるかだ。ナイトレイが演じる女性は、ウソと陰謀で戦争を仕掛けるなんて許せないという正義感から行動したのだが、その一方で、自分の行動が想像以上の騒動になることに怒り落ち込む、というどこか最近流行の「意識高い系」のようにも見え、居心地の悪さも感じる。

それでも、相手が自分の祖国であっても、不正を行って戦争を起こすのは見逃せないと立ち上がる、勇気と意義について考えさせられた。

日本社会では、(そもそも情報機関に入ったのだから、陰謀行為は織り込み済みだろという)組織の常識を逸脱する主人公を、「空気を読まないバカ女」と見なす人が多いのではないか。あるいは、正義を貫くのは尊いのだから、もっと彼女の行為を礼賛するように描くべきだと批判する人もいるかもしれない。

だが、人間くさい矛盾を抱えながら、それでも、国家に立ち向かう主人公の姿を見ていると、これぞ、民主主義を生んだ国の「本当の意味での意識の高さ」なのだろうと思わされるのだ。つまり、ヒロイン像の描き方に、この映画の素晴らしさがあった気がした。



◉オフィシャルサイト
http://officialsecret-movie.com/introduction/

◉予告編
https://youtu.be/uTNJ6ykZ6zU

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