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リンク! シェア! リコメンド!! VOL.5
『2030半導体の地政学――戦略物資を支配するのは誰か』

真山 仁
太田泰彦・著 日本経済新聞出版 2021年11月24日発売

かつて半導体は、「産業のコメ」と呼ばれた。だが、著者である太田康彦は、その認識を捨てるべきだという。彼は「半導体はインフラ」と断言する。
私の不勉強だが、経済の専門家ではないので、日々、経済ニュースの先端を追うことはしない。大抵は、全国紙で大きく取り上げられた時や、偶然見たNスペなどで、「へえ、そんなふうに変わっているのか」と驚き、調べ始めるという場合が多い。
半導体の重要性は分かっていたが、これほどまでに、世界の半導体事情が激変し、それが軍事的な危機を拡大させ、本書のタイトルのように、地政学的な視点で見る重要性が生まれていたのを、全く知らなかったのは不覚だった。

冒頭からサプライズの連続なのだが、例えばアメリカ――。
先の大統領戦でトランプに勝ちはしたが、「冴えない老人」のイメージしかないバイデン大統領が、着任早々、アメリカにおける半導体産業シフトを強力に推し進めている。
しかも、その強引ぶりは帝国主義的と言えるほどだ。

なぜか? それは、一言では言えない。本書には、その背景、プレイヤー、さらには現在の構図が生まれた「必然性」が、ファクトを丁寧に集めて綴られている。
また、本書を読むと、なぜ今「台湾危機」が叫ばれているのかも、納得できる。
それどころか、中国による台湾侵攻が、明日にも起きるかもしれない恐怖すら感じる。
そして、かつて「半導体大国」と呼ばれた日本の低迷と悲惨な現状を明らかにした上で、これからどのように展開していくべきか、その指針も示されている。

無論、日本政府が無策なわけではない。本書でも言及しているが、バイデン大統領が強引に自国に工場を建設させた世界最大のファウンドリ(半導体チップ製造)、台湾積体電路製造股份有限公司(TSMC)の先端工場を熊本に誘致。建設費の半分にあたる4000億円の補助金を充て、話題にはなった。だが、米中欧のような未来を見越した戦略には乏しい印象がある。

読んでいる間中ずっと、胸がザワザワする感覚が止まらなかった。
この書は、半導体関係者のみならず、多くの日本人が読むべきだ。
そして、官邸や経産省、財界は繰り返し読んで、一刻も早い半導体への腰を据えた本気の取り組みを始めてほしい。


https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/32441

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