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share商業、金融、ジャーナリズム、そしてエンターテイメントの街、ニューヨーク。それが今、世界最大の新型コロナウイルス（COVID-19）のホットスポットと化している。2007年以来、現地に在住し、映画やドラマの作品作りに挑み続ける気鋭の女性監督が現地から報告する。
新型コロナウイルス（COVID-19）との戦いは約1カ月前に始まった。その後外出を極力避けている私は、この10日間、自宅から一歩も外へ出ていない。
2月末、日本でCOVID-19感染拡大に対応する措置として、コンサートや卒業式が延期になった頃、4月に東京で行う予定だった、私が監督するアメリカ製作の新作ドラマのロケハンが延期された。3月1日には、ニューヨークで第一感染者が発見されると、当地でのテレビ番組や映画の撮影は一瞬のうちにすべて中止が決まった。
唯一、時々撮影を手伝う制作会社が3月13日、テレビのバラエティ番組の撮影を敢行。しかし、出演を約束していた一般人が撮影現場に現れず、代役を探すのに手間取っているうちに、現場入りしていた俳優がいつの間にかいなくなった。全員顔を出すと言っていたテレビ局の幹部もスポンサーも一人も来なかった。
アメリカのエンタメ業界はいい加減だな、と思うことなかれ。これは、ニューヨーク市に非常事態宣言が発動され、ブロードウェイなどの公演がすべて中止された翌日であり、皆がどう行動すべきかわからない状態だったからだ。その後、飲食店や公立学校の閉鎖、出社の全面禁止要請が1週間のうちに怒涛のごとく発表された。
当然、エンタメ業界にも深刻な影響が及んでいる。このまま中止が続くと、私を含めた関係者の多くが、仕事を失い露頭に迷う可能性があるからだ。アメリカ、特にニューヨークでは、エンタメ業界は市が最も力を入れている最重要産業の一つであり、演者やスタッフへのサポートは必須だ。
実際、手を差し伸べる動きも出てきた。アメリカは日本と異なり俳優、監督、カメラマンなどあらゆるポジションに、それぞれ組合があるため、中止になった撮影や公演の報酬がどこまで補償されるのかの交渉が行われている。その間に、詳しいことは明らかにされていないものの、Netflixがキャスト・スタッフを援助すると発表。また、COVID-19に影響を受けたアーティストやフリーランサーを支援する制度や団体、ローンの情報があちこちに掲載され始めたのだ。
一方、当初、疾患のある高齢者以外は重症化しにくいと言われていたこともあって、一部のニューヨーカーたちは、出歩くのをやめなかった。入店を待つ行列での喧嘩やアジア人への攻撃も多数報告されていたが、それに対して、多くのアーティストや俳優が注意を促すメッセージを発し、そのメッセージは州知事や市長のTwitterでもリツイートされた。日本では想像しにくいかもしれないが、ここでは政府とエンタメ業界が協力し合い、刺激し合う関係が築かれている。
私はといえば、正確な情報収集と友人らの安全確認に務めていた。友人らも、中小企業援助、家賃免除、飲食店労働者支援、税金支払い延期などに関する法案への署名依頼をメールでどんどん送ってくる。このほか、馴染みの日本食レストランからは、「デリバリーを始めた」「閉店するのでサニタイザーと消毒液を寄付する」といった連絡が届き、知り合いの学生からは高齢者への食料品配達ボランティアへの参加依頼や、解析マニアの友人からは、自作の感染拡大予想図と分析結果など、情報と交流には事欠かない日々を送っている。
自宅待機の状態でさえ、それぞれの立場から声を張り上げることを決してやめないニューヨーカーに囲まれ、私は「ニューヨーク」を改めて実感した。猛烈なスピードで変わりゆく状況のなか、人々が助け合い、行動を起こす精神はおおむね高まり、一つの方向に向きつつある。それを牽引しているのは、このような市民一人ひとりからのボトムアップと、市民に寄り添った施策を次々と打ち出す州と市の責任あるリーダーシップだ。
「政策に関する全責任は私が取る」という単純明快なクオモ州知事の言葉は、アメリカで久しぶりに聞く覚悟の一言だった。
執筆者プロフィール：
川出 真理（かわで まり）
映画・ドラマ監督。日本のコンサート業界でプロモーターとして従事した後、2007年に渡米し、ニューヨークのデジタルフィルムアカデミー卒業。監督・脚本を務めた映画『Seeing』でロサンジェルスムービーアワードのベストエクスペリエンス映画とベスト撮影賞をダブル受賞。アメリカ国内外の映画祭への正式参加多数。ドラマでは、コメディ『2ndアベニュー』に引き続き製作した最新作の社会派ドラマ『報道バズ 〜メディアの嘘を追いかけろ〜』がAmazon他で配信中。
