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N.Y. 点描 no.3
〜名物番組、CM…コロナ禍でも止まらない、エンタメ業界の創造力〜

川出 真理

アメリカでは、コロナ禍でも放送を続けるバラエティ番組がある。そして、その番組中に流れるCMは、大半が自宅待機者を意識した内容に切り替えられている。

まだ感染者数が毎日増え続けていた4月11日、今年で放送45年目を迎えるNBCの人気コメディバラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ(SNL)』の「アットホーム」版が放送された。全国的な人気を誇り、ニューヨークの住人にとっては特に思い入れの深い番組だ。なぜなら『SNL』はニューヨークで制作され、多くは生放送されており、ニューヨークのエンタメ界の象徴の一つでもあるからだ。

私は、普段はそれほどテレビを観ない。今はたまたま、ある大学のビデオストリーミングに関するリサーチに参加しているため、ときどき観ているという程度。それでも、『SNL』が新たに撮影したエピソードを久々に放送するというニュースには、私もワクワクした。毎回ではないが、時間があれば観ているし、この状況下で再放送ではないバラエティ番組は貴重だ。コントの内容や撮影方法も気になった。

視聴した感想は、残念ながら特別面白いものだったとは言えない。ほとんどのコントはしっかり練られていないと感じた。撮影のクオリティは、出演者がそれぞれの自宅で撮影しているため低く、その手作り感を見せるのも目的の一つであったであろうことを理解したうえでも、番組としてもう少し視聴しやすくできたのではないかと感じた。でも、「これを観た1時間半を返せ!」とは思わなかった。逆に、確かな感慨があった。

例えば、「みんな同じ境遇にある」ことが、コントの内容と出演者の自宅撮影を通して念押しされていた。有名コメディアンも自分と同じように自宅でオンラインミーティングに参加したり、ダラダラしてしまったりするのを見るのは、自宅待機中の視聴者にとっては、人とのつながりを感じられる重要ポイントだ。また、「感染による死は身近なものである」という事実を、番組プロデューサーの一人と出演者の祖母がCOVID-19が原因で亡くなったと伝えることで示していた。

そんな中で一番印象深かったのは、当たり前に聞こえるかもしれないが、「日常」の復活だ。非日常下であっても、いつものメンバーがいつもの時間に、いつものトーンでテレビに登場することで得られる安心感は絶大だ。同番組の名物プロデューサー、ローン・マイケルズは過去のインタビューで述べている。「SNLは準備ができたらオンエアするんじゃない。土曜日夜11:30(東部時間)になったらオンエアするんだ」。

テレビCMは、感染が広がり始めた後一変した。大半が自宅待機中の視聴者に向けて変更されたからだ。「家にいよう」「社会のために働いてくれている人に敬意を表そう」「ひとつになろう」「ひとりじゃない」などのメッセージに焦点が置かれ、最後に企業ロゴが表示される。やさしいタッチに癒されるが、これもまた限られた素材と時間で制作されているため、映像、ナレーション、テロップ、音楽、構成のどれもが似ていて、企業による特徴がない。

3大ネットワークの一角をなすNBCも、CMを流す大手企業も、コンテンツの質を犠牲にしてでも、人々に寄り添おうとしたのだ。

それが今、徐々に変わりつつある。引き続き自宅待機する人々との一体感に重点を置きながらも、少しユーモアを効かせたものや、パンデミック後の社会に目を向けたものが登場している。ホンダのコマーシャルで比べてみてほしい。

3月にYouTubeに投稿されたTVコマーシャル
https://www.youtube.com/watch?v=EihSeCVkf28&feature=emb_logo

4月にYouTubeに投稿されたTVコマーシャル
https://www.youtube.com/watch?v=GArsyiaJHxc&feature=emb_logo

止まっていた創造力が動き出したかのように感じた。

『SNL』は、4月25日に「アットホーム」版の第2弾がオンエアされた。すべてにおいてクオリティが大幅に向上していた。

4月30日には、「Parks and Recreation」という人気コメディドラマの特別回が放送される。現在の自宅待機生活をドラマの内容に取り込んで撮影したという。(※本稿は4月28日に執筆)。


平日夜などに各テレビ局で放送されているトークショーは、休まずオンエアされている。その数ざっと10番組。どれも最初は試行錯誤だと見て取れたが、今ではミーティングアプリを使ったゲストとのやりとりにも安定感が感じられる。

私の周辺でも、遠隔カメラを使ったリアリティ番組の撮影計画が進んでいる。

自宅待機7週間目、私の脳も働き始めているのを感じる。エンタメに力をもらって、エンタメを作ろう。



執筆者プロフィール:
川出 真理(かわで まり)
映画・ドラマ監督。日本のコンサート業界でプロモーターとして従事した後、2007年に渡米し、ニューヨークのデジタルフィルムアカデミー卒業。監督・脚本を務めた映画『Seeing』でロサンジェルスムービーアワードのベストエクスペリエンス映画とベスト撮影賞をダブル受賞。アメリカ国内外の映画祭への正式参加多数。ドラマでは、コメディ『2ndアベニュー』に引き続き製作した最新作の社会派ドラマ『報道バズ 〜メディアの嘘を追いかけろ〜』がAmazon他で配信中。

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