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発言

N.Y. 点描 no.6
〜市当局が示した飲食店への柔軟姿勢、市民の政治参加が築いた信頼と黙認の関係〜

川出 真理

ニューヨーク市では、6月22日からコロナウイルス感染拡大収束に伴う経済活動再開の第二段階に移行し、美容院や小売店などの営業が再開されて街に活気が戻りつつある。ソーシャルディスタンスとマスクは欠かせないが、私も地下鉄に乗って、徒歩圏外の公園に行ったり、友人に会いに行ったりし始めている。

飲食店ではテイクアウトやデリバリーに加えて、屋外飲食が許可されるようになった。これは、もともと店内にしか飲食スペースがなかったレストランやバーも、店の前や裏庭、屋上、駐車場などのスペースに客席を設けてサービスを提供できるようにするという州政府の施策の一つ。ニューヨーク市では合計2万7000店ある飲食店のうち、7月2日現在6800店以上がアウトドアダイニングを申請して認可されている。

レストランの再開は、私がもっとも楽しみにしていたことの一つだ。でも、お気に入りのレストランには、テーブルを置けるような屋外スペースがないところもある。そういう店に行けるようになるには、もう少し時間がかかりそうだなと思っていると、なんと車道の一部に客席を作ることが許可された。

これには思わず「ニューヨーク市よ、よくやった!」と拍手を送らずにはいられなかった。木板やペンキ、鉢植えや点滅ライトなどを駆使して、飲食店スタッフがせっせと客席スペースを作る姿を見ていると嬉しくなる。

さらに、自宅待機が始まって以来、徐々にいくつかのストリートが歩行者専用となっていたが、市は週末に限り、まずはそのうちの22ストリートを全体的に飲食スペースとして使用できるようにすると発表。もちろん、各席間の適切な距離を確保するなどしたうえだが、それでもこれはとてもハッピーな光景になるように思う。

近隣店とのルール統一や境界線などについては、デブラシオ市長曰く「ニューヨーク市民はお互いの安全を考えて、正しい行いをすると信じている」。

バーの中にはテイクアウトだけが許可されていた頃から、店前にベンチやハイテーブルを置いて客寄せをしていたところもあったが、ソーシャルディスタンスが保たれている限り、市は黙認していたように見えた。

店前にベンチをひとつ置くことで売上が増えるであろうことは、通りすがりの私の目にも明らかだった。ほとんどの州で、公園などの屋外での飲酒が禁止されているこの国で、店前に限るとは言え青空の下お酒を飲む人たちの姿を、私は感慨深く見つめていた。

ただし、増えたのは売上だけじゃなかった。店内へ客を入れることは許可されていなかったため、店先で用を足す人が続出したという記事を読んだとき、数日前に出くわした光景を思い出した。バーが数軒ある地区の小さな公園で、友達に囲まれながらしゃがんで排尿する女性を目撃してしまったのだ。ちなみに今では一定のルールに従えば、飲食店は客にトイレの使用を許可できるようになった。

用を足すといえば、ロックダウン中はそこそこ大きめの公園のトイレには必ずトイレットペーパーが設置されていた。普段なら無いことも多いので、市のこの対応には心の中で思わずサムズアップした。

車道にレストランの客席が設置されたり、バーの前にベンチを置いても罰則を受けなかったり、公衆トイレに必ずトイレットペーパーがあったりするなど市当局の細かい対応と時に黙認、そして市民への信頼は、私たちが正気を保つことができた理由の一つだ。

これを痛感したのは、一時期ニューヨークよりも深刻な状況であったイタリアに住む友人と話したとき。彼のいるローマでは、食料と薬の買い出しやペットの散歩は一応許可されていたが、実際には道を歩いていると注意され、帰宅させられたそうだ。場合によっては罰金を請求されるが、相手が本物の警察官かどうかわからないことも。「この状況が続くと、全体主義に陥るんじゃないかと思うと心配で……」と、彼は私に言った。

犬と一緒じゃなくても散歩が奨励され、「外出禁止」ではなく「自宅待機」という言葉が使い続けられたニューヨークでは、「全体主義に陥るかも」と思うことは一度もなかった。市当局の黙認や柔軟な姿勢は、市民の日頃からの政治参加があるからこそ得られたものだろう。

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