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N.Y. 点描 no.7
コロナ禍の妄想が問いかける〜アメリカが試されていること

川出 真理

数日前、近所の食材屋に行くと、レジを担当していた白人の女性が「くまモン」のマスクをしていた。くまモンの顔がマスク全体に大きくプリントしてあるものだ。

思わず「くまモン好きなの~?」と尋ねると、「これ、くまモンって言うの?」と聞き返された。近くの露店で売っていたということだから、正規商品ではないと思うが、比較的黒いマスクをしている人が多いように感じるニューヨークでは、人気が出るデザインかもしれない。

また、先日行われた、米国の下院議員で公民権運動活動家の故ジョン・ルイス氏のお葬式とメモリアルイベントでは、そこそこの数の参列者が、彼の残した言葉「Good Trouble(必要な迷惑、良いトラブルを起こそう)」と書かれたマスクをしていた。

このように、ファッションや意思表示にマスクを利用する人もいる一方、いまだにマスクをしない人もアメリカには少なくない。私の知り合いでは1人だけそういう人がいる。彼はリベラルで進歩的、親切だが、常に強気な不動産関係のファンドマネジャー。私にとっては少し威圧感のある存在だが、アメリカではよくある成功者のタイプだ。

マスクをしない理由を彼は、「僕は気をつけていて大丈夫だから」と言う。確かに人混みに行くことはなく、家族とともに公共の場に行ってもあまり喋らないようにしているそうだ。

マスク着用が、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制すると科学的に証明されている現在では、受け入れられる態度ではないが、「マスクをつけると弱々しく見える」のを好まない一部のアメリカ人によく見られるものだと受け止められている。

マスクはしているものの彼のパートナーも押しの強い人で、イタリアでコロナウイルス感染拡大の可能性が指摘されると、留学させていた自分の子供を、留学斡旋組織の段取りに従わずに即刻帰国させた。「うちの子は一刻も早く直行便で帰国させたかった」と言うのが彼女の談。私はちょっと驚いたが、アメリカでは「お手柄だったね」と言われる行動だ。

このような話は、「公共」より「個人の意思」が重視されるアメリカでは珍しくない。多くのアメリカ人に備わった資質であり、逆に無ければ生きていけないものだ。日本で育った私は、思いもよらないところで、この資質がしっかり確立できていない自分を思い知らされている。

さらにこのエピソードからは、もう一つのアメリカのキーワードである「権力」が浮かび上がる。「私には権力がある」なんて誰も言わないが、権力を使って意思を突き通すことは、アメリカ人にとっては生き様そのものだ。

コロナ禍におけるアメリカ社会の分断は、ロシアなど海外からの情報操作が多大に影響していると言われている。アメリカにとっては悪いことに、同国からと見られる選挙への干渉と相まって、収拾のつかない状態に陥っている。

私の目には、この分断は前述のアメリカ人の2つの資質、「個人主義」と「権力主義」が悪いように機能して増幅したように映っている。いや、もしかしたらたまたま悪いように機能したのではなく、これらは全て、計算されていたことだったのではないか。

映像作家である私は妄想が飛躍し、ドラマチックに仕上げてしまう癖があるので、以下のくだりを読む際には読者の皆さんには留意してもらいたい。

コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃、「これって〈戦争〉みたい。世界中皆が苦しんでいてお互いを助ける余裕がない」と思った時期があった。もしかしたら地球征服を狙う誰かが世界を分断することで始めた、血を見ない戦争なのではないかと考えたのだ。

最近では、「コロナ禍とは、新型コロナウイルスを使って誰かが、私たちの行動をテストしている、あたかも人的に操られているようだ」と感じている。例えば、あるエイリアンが、それぞれの地域で生きる人間の特徴を利用して、自己破壊させようとしているのではないか。

いや、そうではなく、〈世界平和〉を望む人間の祖先のヴァンパイアが、世界がひとつになれるかをテストしているのではないかとも考えてしまう。アメリカであれば、「個人主義」や「権利主義」を捨てずとも社会性や協調性とのバランスを築けるかが試されているのではないか。だとしたら、多くの優れた点を持ちながらもいまだ国民が安心して生活できていない日本では、何が試されているのだろうか。

マスクとなって、世界各地を見ているくまモンなら、知っているかもしれない。




執筆者プロフィール:
川出 真理(かわで まり)
映画・ドラマ監督。日本のコンサート業界でプロモーターとして従事した後、2007年に渡米し、ニューヨークのデジタルフィルムアカデミー卒業。監督・脚本を務めた映画『Seeing』でロサンジェルスムービーアワードのベストエクスペリエンス映画とベスト撮影賞をダブル受賞。アメリカ国内外の映画祭への正式参加多数。ドラマでは、コメディ『2ndアベニュー』に引き続き製作した最新作の社会派ドラマ『報道バズ 〜メディアの嘘を追いかけろ〜』がAmazon他で配信中。

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