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巴里日記_2
〜フランス政府が恐れる医療崩壊、掛け声だけで中身伴わぬ現場の窮状〜

田畑 俊行

3月12日木曜日の夜、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するテレビ演説を行いました。ウイルス感染の拡大防止のため週明けからの学校閉鎖やテレワークの推奨などを呼びかける内容で、同日深夜にはパリの日本大使館からも在仏邦人向けに演説内容を詳細にまとめたメールが配信されました。翌14日土曜日にはエドワード・フィリップ首相が会見を行い、「大統領演説による呼びかけにもかかわらず、レストランやカフェにはまだ人が多く集まりすぎており、集会の制限などの徹底が不十分に見受けられる」と指摘した上で、日付の変わる深夜0時よりレストランやカフェ、映画館など日常生活に必須とされない店舗・施設の閉鎖に加え、あらゆる集会やイベントの延期を呼びかけました。

こうした自粛や閉鎖を呼びかける一連のメッセージの中で、実は何度も強調されたのが、医療従事者の活動に対する最大限の支援です。特に力点を置いていたのが、公共交通機関の運行は継続されるものの一般の利用は可能な限り避けるべきということ、そして、医療従事者の子供に対し限定的に保育所や学校を開け続けるということでした。

何らかの社会的危機に際し、フランス政府のトップが好んで口にするのが「Solidarité(連帯)」や「La France unie(ひとつのフランス)」という力強い言葉です。しかし、これらの言葉の裏には、一部の人々の犠牲が隠れているようです。

パリのPitié-Salpêtrière病院に訪問したマクロン大統領と、ある医師とのやりとりが話題になっています。この医師は公立病院の運営が極めて困難な状況にあることを繰り返し訴え、大統領に迅速な措置を直訴しました。それまで他の病院関係者と握手を交わしながら笑顔で激励を送っていたマクロン大統領でしたが、この医師を前にしたとき、その受け答えは歯切れの悪いものでした。

病院に勤める知人から聞いた話ですが、特に救急病棟ではその労働の過酷さから自殺者も少なからず出ているそうです。また、医師であっても期限付き雇用契約の場合が多く、さらに慢性的な人員不足から長時間労働を強いられているといいます。

自身の経験に限って言えば、公立病院で目にする医療機器や備品の類は一般的な日本の病院のものと比べると年季が入ったものが多く、経営面でも苦しそうな印象を受けます。どのような分野でも、現場が抱える窮状の真実は、外部が知り得ない物ですが、直訴した医師は批判も承知の上で、相当な覚悟を持って報道陣の前で大統領の手を握って離さなかったのではないかと想像します。実際、病院の現場に大統領の訪問が知らされたのはほんの数時間前だったそうです。

14日の時点で、フランスのウイルス感染者は4,499人(うち91人死亡)と発表されており、その数は日々、加速度的に増加しています。検査や隔離といった最前線の対応の中で、医療従事者にのしかかる責任と要求はこれまで以上のものとなることが予想されます。彼らが倒れてしまっては元も子もないのですが、フランス社会は今後彼らをどのように支えることができるのでしょうか。

もっともフランスに限らずどこの国でも、為政者は響きのいい言葉を口にするばかりで、真のリーダシップを取ることを怖れているように見えてなりません。フランスではこれから2週間に渡り地方選挙の投票が行われます。その行方を見守りたいと思います。

http://www.leparisien.fr/video/video-macron-interpelle-a-l-hopital-ah-oui-vous-pouvez-compter-sur-nous-l-inverse-reste-a-prouver-27-02-2020-8268309.php



執筆者プロフィール:
田畑 俊行(たばた としゆき)
エンジニア。1983年兵庫県生まれ。京都大学工学部物理工学科を経て、東京大学大学院工学系研究科にて博士号(工学)を取得。その後、2013年に渡仏。原子力代替エネルギー庁電子情報技術研究所の研究員(ポスドク)を経て、現在はパリ近郊の半導体技術関連のベンチャー企業にて研究開発チームを率いる。

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