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医療関係者らを脅かすマスク不足、失政のツケ押し付けられた最前線の憤り

田畑 俊行

今、フランスには圧倒的にマスクが足りない。

最前線で日夜、新型コロナウイルスと戦う医療関係者や、外出制限の規制のため路上に立つ国家憲兵隊員、警察官-こうした人々がウイルスの脅威から身を守るためにはマスクが必要だ。現在、工場はフル稼働でマスクを生産しているという。つい先日には、中国の通販大手アリババグループがマスク100万枚をフランスに寄贈したと報道された。それでも、今この瞬間、フランス社会が陥っている危機を戦い抜くには数が足りないのだ。

そもそも、フランスには政府主導で疫病対策として常時、6億枚のFFP2(微粒子濾過率94%以上)クラスのマスクと8億枚の手術用マスクが備蓄されているはずだった。それが現在では、手術用マスクは1億5000万枚、FFP2クラスに至っては在庫なしという状況に追い込まれている。

オリビエ・ヴェラン保健大臣によるマスク不足発言に端を発し、メディアが調査したところによれば、過去10年にわたる行政改革の中でマスクの在庫管理の責任がたらい回しになり、その中で段階的に在庫を削減。2015年以降、経済的な理由もあって行政主導によるマスクの備蓄が完全に打ち切りとなっていたという。

その後は、医療機関がマスクを備蓄することとされていたが、疫病対策の前線基地となるべき公立病院は財政難に喘いでおり、そんな余裕はない。結果、肝心なときにマスク不足が露呈したのだ。これは明らかに失政と言える。

失政のツケを押し付けられた冒頭のような人々の間から、「労働拒否権(droit de retrait)」の行使を訴える声が溢れ始めた。フランス共和国労働法(L4131-1)によると、この権利は従業員の労働状況について定めたもので、「彼の生命または健康に対する深刻かつ差し迫った危険」を示す場合にのみ適用されるとある。まさに、今回のコロナウイルスの脅威に対して適用されるような権利なのだ。

ほんの一時の経済的メリットを選択したことが、今になってフランス社会に重くのしかかる。医療崩壊の引き金に手をかけるのは、ウイルスではなく、過去の政治家たちの先読みの甘さかもしれない。

https://www.lci.fr/sante/coronavirus-covid-19-pourquoi-la-france-est-en-penurie-de-masques-ffp2-2148489.html



執筆者プロフィール:
田畑 俊行(たばた としゆき)
エンジニア。1983年兵庫県生まれ。京都大学工学部物理工学科を経て、東京大学大学院工学系研究科にて博士号(工学)を取得。その後、2013年に渡仏。原子力代替エネルギー庁電子情報技術研究所の研究員(ポスドク)を経て、現在はパリ近郊の半導体技術関連のベンチャー企業にて研究開発チームを率いる。

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