フランスでは3月末に、4月15日までの外出制限の延長が決まりました。本稿執筆の4月5日時点で、新型コロナウイルスによる死亡者数(入院患者の中での数字であり、老人ホームなど介護施設での死亡者数は含まれていない)はすでに5889人を数えているものの、その増加にはようやく減速の気配が見られるという報道もあります。
こうした折、フィリップ首相がテレビ出演し、様々な質問に答える中、外出制限の解除に関しても触れました。具体的には今後展開される予定の全国的な抗体検査などの結果を踏まえながら、地域ごとに徐々に外出制限を解除していくことになるのではないかという内容でした。一方で、病院関係者のインタビューでは、これからが一番大事な時期なのだと何度も強調されていました。
パリは今週からイースター休暇に入ります。外の陽気が春らしくなってきたこともあり、人々の気持ちもどこか開放的になってきているようです。
外出制限期間中は、署名した特例外出証明書の携帯が義務付けられていますが、多くの人がその理由の一つとして認められている「個人の運動や家族の散歩を目的とした自宅1キロ圏内での1時間以内の外出」を利用して、澄み切った空と太陽を少しでも楽しもうとしているようだ、と、街頭レポートは伝えます。取材を受けた市民は、まだ外出制限が解除されていないことを十分に理解していると口にしつつ、最低限の息抜きは必要だと悪びれる様子は微塵もありません。
外出制限が開始される前に、なんと17%ものパリジャンが地方へ「逃避」した可能性があることが、電力消費を追跡した調査で示されています。この逃避行は、地方に感染リスクを拡大させるばかりではなく、雪崩込んできたパリジャンと地元民との軋轢を各地で生じさせました。地域によっては、人口が平時の2倍程度にまで増加したという報道もあり、現地の医療崩壊リスクが懸念されています。
今回のイースター休暇は、それに拍車をかける可能性があります。パリの狭いアパルトマンから、地方の庭付き一軒家への「脱出」を試みる人々が、堰を切ったようにハイウェイに押し寄せているといいます。
当然、政府は「この状況でバカンスなど論外」として取り締まりを強化していますが、パリを出ようとする人々は「狭いアパートの中では子供を遊ばせられずかわいそうだ」「パリから人が減ったほうが良いのではないか」「田舎に行ったほうが人口密度が少なく感染リスクが減るので」などと、外出制限の本来の主旨を無視した身勝手な理屈を並べ立てるばかりです。
フランス社会は今「Solidalité(連帯)」と「Individualisme(個人主義)」の間で危うく揺れているように感じます。社会の危機に際し強い団結を示す人々がいる一方で、いまだに自分自身やその家族の些細な利益を第一に考えることに何の後ろめたさも感じない人々も相当数いるのです。この二極性は、筆者が7年間のフランス生活で何度となく目にしてきたものですが、今回のコロナ危機に至ってより顕在化したと感じます。
フランス政府が市民に対しどれだけ手綱を締めることができるのか否かが、今後の展開を大きく左右することになるのではと感じています。
執筆者プロフィール:
田畑 俊行(たばた としゆき)
エンジニア。1983年兵庫県生まれ。京都大学工学部物理工学科を経て、東京大学大学院工学系研究科にて博士号(工学)を取得。その後、2013年に渡仏。原子力代替エネルギー庁電子情報技術研究所の研究員(ポスドク)を経て、現在はパリ近郊の半導体技術関連のベンチャー企業にて研究開発チームを率いる。