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巴里日記_18
大統領選念頭にワクチン未接種者を“口撃”〜マクロン大統領発言に広がる波紋

田畑 俊行

パリ市内の公立病院でデータ・サイエンティストとして勤務する友人から、久しぶりに電話があった。彼は、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まった頃から、自分は絶対に打たないと言い切っていて、以来、反対デモにも度々参加するなど、反ワクチン派を貫いている。

雑談の中で知ったのは、今、彼の雇用契約は医療従事者に対するワクチン接種義務違反を理由に差し止められているということだった(上述のとおり彼は医者でも看護士でもないが、病院に勤務する以上、医療従事者とみなされるそうだ)。それどころか、行政による失業保険や住宅費補助制度の利用も許されず、かれこれ数ヶ月の間、一切の収入がない状態が続いているという。「いっそパートナーの住んでいる地方都市へ引っ越して、そこで新しい仕事を探そうかと思っている」と、うんざりした様子で私に言った。

年が明けた今、フランス社会では、マクロン大統領のある発言が物議を醸している。
「ワクチン未接種者に対してはとことん嫌がらせてやりたい(Eh bien là, les non-vaccinés, j’ai très envie de les emmerder)」

これは、マクロン大統領が、ル・パリジャン誌によるインタビューの最中に発した言葉だ。この言い方が、大統領の職にある者の態度として如何なものか、国民を蔑ろにしていると、多くの野党政治家から反感を買っているのだ。とはいえ、一説によれば、これはポンピドゥー元大統領(1969 〜1974年)が当時乱発されていた法令にうんざりして言った「Arrêtez donc d'emmerder les Français ! (もうフランス国民を困らせるのはやめよう!)」を下敷きにしているとされる。

ただ、現在のコロナ感染拡大による医療逼迫は、ワクチン未接種者によって引き起こされていると見られている。
フランスの総人口は約6700万人で、20歳以上では5100万人であるが、このうち9割以上がワクチン接種を完了している(2022年1月11日時点)。つまり、ワクチン接種完了者と未接種者の間には、圧倒的な母数の違いが存在する。にもかかわらず、ワクチン未接種者は、フランス全土にある蘇生病床の7割から9割、新規入院件数の約半数を占めているからだ。しかも、違法に取得した衛生パスポートの使用者がいると発覚し、ワクチン未接種者に対する反感が高まっている。今回のマクロン大統領の発言に、賛同するフランス国民は少なくないだろう。

何であれ、今回、マクロン大統領があえてこのような婉曲的でない表現を使ったのは、国民の大多数(つまり、ワクチン接種済みの人々)を念頭に、次期大統領選に向けて支持固めを狙った攻めの一手だったのかもしれない。




執筆者プロフィール:
田畑俊行(たばた としゆき)
エンジニア。1983年兵庫県生まれ。京都大学工学部物理工学科を経て、東京大学大学院工学系研究科にて博士号(工学)を取得。その後、2013年に渡仏。原子力代替エネルギー庁電子情報技術研究所の研究員(ポスドク)を経て、現在はパリ近郊の半導体技術関連のベンチャー企業にて研究開発チームを率いる。

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