真山メディア
EAGLE’s ANGLE, BEE’s ANGLE

テーマタグ

発言

『正しさを疑え!』第8回
コロナ問題を「政争の具」にしてはならない

真山 仁

4月7日、新型コロナウイルスの蔓延を受けて、安倍晋三総理は「緊急事態宣言」を発令した。

残念ながら、他国と異なり、この宣言には、強制力も罰則規定もない。外出するには許可証が必要な国もあるが、日本にはない。公共交通機関の運行を禁止する規定もなく、運行本数を減らす命令すらできない。
つまり、指定された都府県の人の行動を規制するものではなく、どこまでも自粛を促すものでしかない。
国民の命を守ることが、国家の最重要課題だ。だとすれば、こんなザルの法律を制定し、堂々と「緊急事態宣言」などと呼ぶことの情けなさを、我々は記憶しておくべきだろう。

それ以上に気になったのは、緊急事態を宣言することが、政争の具になったのではないかという危惧だ。こんな大変な時に、そんなことはどうでも良いという意見もあろう。だが、国民が未体験のウイルスに戦いているのを利用して、自身の政治活動のための道具にしているのだとしたら、それは、由々しきことだ。

そもそも国際オリンピック委員会(IOC)によって東京五輪が延期になった翌日、小池百合子東京都知事は突然、東京都は新型コロナウイルスで深刻な事態にあると強調し始めた。
しかもかつて知事が選挙に出馬した時と同様、無表情に「感染爆発の重大局面」というフリップを掲げたのを見た時、「ああ、知事選挙が始まるのか」と思ったのは、私だけではないだろう。
あのフリップを掲げた日に突然、重大局面に至ったわけではない。それまでも、ずっと都民は心配していたのに、五輪開催の可否が明白になるまで、これほど危機感を表明しなかった。
一方、安倍総理も同様だ。東京五輪の延期が決まるまでは、夏までには問題は解決して、予定通り五輪を開催すると言わんばかりの発言を繰り返していた。それが、延期が決まった翌日から、新型コロナウイルスが、日本社会に大きな影響を与える最も重要な問題だと前のめりになった。

アスリートや都民の生命よりも、五輪を優先していた為政者たちが、あの日を境に、まるでずっと、新型コロナウイルス問題対策に邁進してきたかのような態度に豹変した。
挙げ句に、「一刻も早く緊急事態宣言せよ」と迫る小池知事と、「まだ、その局面にない」と宣言をしない安倍総理の対立構図がくっきりと現れた。

これは、都民(国民)の命を人質にした政争ではないのだろうか。
宣言は、総理の権限だ。実際は有名無実な宣言ではあるが、具体的な対応、期間など、宣言後の問題を考えると、軽はずみに実行できないことは、両者とも承知のはずだった。

だが、知事として都民の命を守るために、総理に宣言を迫るというのはいかにも勇ましく、「都民ファーストの知事」をアピールできる。
一方、総理からすれば、都知事からの突き上げは不愉快だし、7月に迫っている都知事選前のパフォーマンスに利用されたくない。だから、都知事の面目をつぶさずにはいられず、簡単には宣言なんてしない。そんな綱引きが繰り広げられていたのではないか。

さらに、宣言されたことによって、該当する都府県で何か問題が起きても、責任を負うのは総理大臣であり、知事は被害者として、総理を攻撃できる。
これが小説家の妄想ではなく事実だとしたら、小池知事は類い稀な策謀家だ。

安倍総理は、宣言した日、記者会見を生中継し、テレビ局をハシゴして説明を繰り返したが、パフォーマンスでしかなく、強いリーダーシップを感じさせるよりも、国民の恐怖を煽っているとしか見えなかった。
小池知事に一矢報いたとしたら、宣言の期間を1ヶ月にしたこと、さらに東京都を含め合計7都府県を宣言の対象にしたことぐらいか。

結局、国も都も、ウイルス蔓延を防ぐためのリーダーシップを取っていない。国民に自己責任を押しつけ、恐怖を煽っているだけだ。
地球規模の厄災が進み、国家としてのリーダーシップが問われる中、為政者にコロナ対策を政争の具として利用などさせてはならない。もし、そんな意図を持って行動したのであれば、即刻辞職すべきだろう。

この指摘が、的を射ているかどうかは、まもなく判明するはずだ。
すなわち、都知事選挙の時に「都民の命を守るために、政府に緊急事態宣言を強く求めたのは私です」と小池知事が訴えたら、それは「犯行」を自白したことになる。一方、緊急事態宣言によってコロナの蔓延が少しでも減り「あの時私が英断したから蔓延が減ったのだ」と総理が言えば、彼も同罪だ。

大混乱している時、為政者はとてつもない我欲に突っ走ったり、非常識な決断をしたりするものだ。そういう愚行をしっかりと見極め、状況が落ち着いた時には、その行為を指摘し、責任を取ってもらう。それが、民主主義のあるべき姿ではないだろうか。

あわせて読みたい

ページトップ