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発言

『正しさを疑え!』第4回
アスリート・ファーストの欺瞞

真山 仁

11月1日、東京五輪の競歩とマラソンの会場が、札幌に正式に決定した。
開催地である東京都の小池百合子知事らの抗議は、実を結ばなかった。
小池知事のみならず、東京都や関係者の多くは、国際オリンピック委員会(IOC)の強引な競技地変更に怒りと戸惑いを隠さない。国民の多くにも不可解さが湧き上がり、五輪開催決定から続いたトラブルを思い出した人は多いだろう。
既に開催まで1年を切った時期での競技会場変更は、明らかに主催者であるIOCに問題がある。だが、IOCはそれも承知の上で、舵を切った。その理由は「選手にベストコンディションで競技に参加して欲しい」という正論だ。

きっかけは、9月にアラブ首長国連邦のドバイで開催された世界陸上の女子マラソンだ。酷暑と高湿度の影響を考慮して、深夜に開催されたにもかかわらず、途中棄権者が4割超にも上った。
それを見て、「8月の東京も、同様のリスクがある」と判断したためだ。
小池知事の「競技は、アスリート・ファースト」という理屈からすれば、札幌での開催は、理に適っている。
小池知事の知らないところで、IOCと組織委員会や官邸が手打ちをしたという生臭い噂は別にして、遅きに失しても、英断だろう。

また、東京都は「IOCのバッハ会長の独断が目に余る」というような批判をしているが、それはどうだろう。もし本当に「アスリート・ファースト」を徹底的に貫いているのであれば、招致の段階から、東京都は「開催は10月で」と訴えるべきだった。
あるいは、8月開催の場合は、北海道など東京よりも涼しい会場で行うと自ら提案するのが筋だろう。
結局は、招致のためにはウソのような方便を並べ、何でもIOCのリクエストに応えると主張し、開催が決定したら、決定したで問題が山積する――という招致体制自体に問題があった。

一体、誰のための五輪なのか?

答えは、アスリートのために決まっている。そして、彼らを応援する観客も快適に観戦したい。だとすれば、屋外競技の中で極めて過酷な競技の一つであるマラソンが、東京より涼しいと予想される札幌で開催することで問題は解決したのだろうか。
今後、他の競技からも、暑さと高湿度対策について、様々な訴えが上がる可能性を、IOCや組織委員会は想定しているのだろうか。
対症療法的な対策しかない五輪の開催のありかたは、これを機に見直すべきではないのだろうか。

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