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ソウル訪問記1
近くて遠い国で何を見た?

真山 仁

2017年2月5日、私は初めて韓国の首都、ソウルを訪ねた。小説『トリガー』(KADOKAWA)の取材のためだ。
韓国は面倒な国だ。何でもかんでも日本に噛みついては、カネをせびる――。そんな偏見が、昔から日本国内には存在した。一方の韓国では、日本に併合されていた時代の日本人の非道な行ないを歴史として子どもたちに学ばせている。感情論を別にして、それなりに史実をたどっているが、そんな授業を受けたら、日本人ですら日本が嫌いになると言われる史観を側聞したときには、「そこまで日本が憎いか」と思ったこともある。
さらに、20世紀の終わり頃から、韓国メーカーの成長が著しく、「既に日本を抜き去った」という声も聞くようになったし、実際、汎用性の高い半導体や液晶パネル製品では、日本は韓国の後塵を拝した。しかし、韓国メーカーには申し訳ないが、そもそも総合力を比べると、とても日本のライバルを名乗るのはおこがましいというのが、私の見解だ。
したがって、これまでの韓国側の様々な発言や、時に挑発めいた行動も、日本側としては静観することこそが、先進国としての余裕ではないのかとも思っていた。

一方で、韓国には日本にない強みもある。
例えば、韓国映画の質の高さは、日本は到底及ばない。
特に政治的な問題への切り込み方や、複雑な関係性の北朝鮮などを巻き込んだ謀略映画のレベルは、欧米にも引けを取らないと思っている。
食事や文化、さらにはコスメなども、魅力的な光をたくさん放っている。
何より、国が豊かになっても尚衰えることのないハングリー精神は、日本も手本にすべきだろう。

そんな「近くて遠い国」という印象がある韓国の実態を、体感しようと、私は仁川国際空港に降り立った。

韓国の冬は、厳しいと聞いていたため、覚悟はしていたが、骨身に染みるほどの寒さに怯んだ。その一方で、室内はTシャツ一枚でも過ごせるほど暖かいので、まめに上着を脱着しないと、風邪を引く。
何事においても程々というものがなく、振り切る韓国文化らしいな、などとも思った。

海外取材の時、私は可能な限り自らの足で街を歩くことにしている。馴染みのない土地の雰囲気を、限られた時間で感じ取るには、街の空気を吸うのが一番だからだ。
大勢の人とすれ違いながら、気になる場所があれば、寄り道をして、可能な限り空の状態で情報を得ながら、事前に調べておいた情報と比較する。
インタビューと散策を織り交ぜることで、徐々に人々と街の印象を掴み取れるようになるのだ。

そうした取材方法でソウルを歩き感じたのは、私が知る海外の中でソウルが最も日本の都会の街並みに近いことだ。ハングルの看板や標識がなければ、日本にいると錯覚してしまうほどだ。その近似性は、これまで一番近いと感じていた上海の印象が霞むほどだった。
そして、まさにこの近似性こそが、日韓の近親憎悪のようなこじれを生んでいるのかも知れないと、おぼろげに感じ始めていた。


《次回へつづく》

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