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コラム

キルゾーン〜城は何のためにあるか 第5回
「歴史」という謎解き①

日野 真太郎

これまで城巡りは謎解きで、その視点には「マクロ」と「ミクロ」があるという話をしました。今回は「謎解き」以外の城を楽しむ方法について触れてみたいと思います。城の写真を撮ったり、特定の建築物に着目したりする方法もありますが、王道的なのは城の歴史に思いを馳せる楽しみ方でしょう。

例えば、数年前の大河ドラマで話題になった真田丸は、大坂冬の陣で真田幸村が大坂城(大阪市)に築造したもので、JR玉造駅の西側の程近い場所にあったとされています。現在は完全に市街地化しているため、思いを馳せるにはかなりの妄想力が必要であるものの、ここで真田幸村が、徳川勢の大軍を撃退したのかと思うと、やはり気持ちが昂ります。

或いは、上杉謙信が本拠地とした春日山城(新潟県上越市)の本丸に立って日本海を仰ぎ見ると、謙信も同じ景色を見たのかと思い感慨深くなります。

これらは、幸村や謙信が関与したという城の歴史を知っているからこそできる楽しみ方です。

春日山城の本丸から眺める日本海(2019年9月著者撮影)

ここでいう「歴史を知る」とは、様々な史料に基づき、合理的推測をもとに往時に何があったのかという事実を認識し、それらの事実を集約して評価する行為と捉えています。とはいえ、史実(事実)でないことはすべて排除するという意味ではありません。

史実か否かは、『三国志』と『三国志演義』の違いであると言えば分かりやすいかもしれません。『三国志』は、2世紀後半からの約100年間の歴史を、3世紀後半に陳寿が記録した歴史書【注参照】であり、その時点の正史ですので、概ね史実の記載になっていると理解していいと思います。

これに対し『三国志演義』は、14世紀頃に完成した、史実を元ネタにした歴史小説です。しかし、『三国志演義』があまりに広く知られたため、そのストーリーが史実と勘違いされていることが多々あります。

『三国志演義』の華といえば一騎打ちですが、正史『三国志』で記録されている打合せは数件(郭汜対呂布、孫策対太史慈、閻行対馬超、関羽対顔良)しかありませんでした。もし、『三国志演義』が史実だと信じていたら、当時の戦争は武将同士の一騎打ちで決着していると思い込んでしまうでしょう。

城の多くが築かれた日本の戦国時代についても、実は同様の誤解が多々あります。有名な川中島の戦いの、武田信玄と上杉謙信の一騎打ちもフィクションの可能性が高いどころか、そもそも川中島の戦いが何回あったのかもよくわからないとされています。

また、先に出てきた真田幸村も、当人が「幸村」を名乗った証拠は見つかっていません。このように、史実と思われていても、わかってないことが多くあるのです。

川中島の一騎打ち像(2010年3月著者撮影)

戦国時代はそもそも記録があまり残っていませんし、戦災等で記録が散逸してしまいました。加えて、江戸時代以降に多く作られた様々な「盛られた」逸話等が、史実として受け入れられていることも原因と思われます。

例えば、江戸時代末期から明治時代初頭にまとめられた『名将言行録」という書物は、多くの戦国武将のエピソードを記述したものですが、事実を伝えるのが眼目でありながら、数多くの軍記物を引用しているため、現代の歴史研究の成果からすると、史実とは思えない内容が多く記載されています。

しかし、大隈重信や日本民法の父である梅謙次郎といった錚々たる人物が序文を追加した形で出版され、伊藤博文も熟読したとされたこともあって、この中に記載された話が史実と思われて広まりました。実際に、歴史愛好家がこの書物から逸話を引用することも多々あります。

戦国時代について、筆者を含めて原典が読めなかったり、アクセス方法を知らなかったりする素人にとって、自ら史実を突き詰めるのは困難です。だからこそ、1つの情報を鵜呑みにせず、歴史学者・研究者など謎解きを専門にしているプロフェッショナルの力を借りることで、我々も後追いができるのです。

記録や情報の少ない中で、史実を学び、史実が何であったか考えるという姿勢や、その手法は、現代に生きる我々に叡智を与えてくれます。次回は、具体的にはどのようなアプローチをとるべきかからお話しを続けたいと思います。(つづく)

【注】「三国志」は、裴松之が5世紀に注を付しています。陳寿の淡々と簡潔な説明に対して、裴松之は陳寿が触れなかった事実関係や逸話を追記するなど、生き生きとしたコメントをしています。たとえば、「死せる諸葛 生ける仲達を走らす」は陳寿ではなく裴松之の注が出典です。正史の「三国志」(ちくま学芸文庫)は全8巻で通読は困難ですが、自分の興味のある人物の評だけでも読んでみると面白いと思います。

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