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コラム

キルゾーン〜城は何のためにあるのか 第9回−6
防御施設はどう配置されているのか ⑥天守・櫓

日野 真太郎

最後に、天守(てんしゅ)と櫓(やぐら)について述べます。

まず、櫓は弥生時代からありますが、近代城郭においては、曲輪の角(隅部)に、恒久的な構造物として設けることが多く見られます(隅櫓)。その機能は、上の桝形虎口や馬出の図でも示したように、敵を攻撃するための防御拠点です。
また、櫓は二重、三重のものがあり、大きなものでは熊本城(熊本県熊本市)の宇土櫓は三層で、高さは地上19mあります。天守のような見た目を持っています。ちなみに、犬山城天守(愛知県犬山市)が約19m、彦根城天守が約16mなので、宇土櫓の高さは実際に天守並です。

他にも、一階建てで石垣の上にくねくねと曲がって繋げるような形で作られる続櫓や、一階建ての櫓の上に櫓を重ねるようなパターンもあり、たとえば彦根城には、天秤櫓という一階建ての櫓の両隅に櫓が載せられたユニークな形状のものがあります。
なお、天守や櫓は「五重六階」(姫路城)など、外から見た階層を「重」や「層」で、中の実際の階数を「階」で表すことがあります。

彦根城天秤櫓(2013年7月)

次に、天守です。その起源はよくわかっていませんが、現在みられる天守に繋がるものが初めて作られたのは、織田信長の安土城(滋賀県近江八幡市)と言われています。
以後、豊臣秀吉が、大坂城(大阪府大阪市)や伏見城(京都府京都市)で天守を築いたことで、豊臣政権下の大名がこれを模倣し、全国に普及しました。天守は、本丸に天守台と呼ばれる石垣を築き、その上に設置します。なお、「天守閣」というのは、江戸時代の終わりごろから使われるようになった言葉で、本格的な城好きは絶対に使わないので、ご注意を。

天守には、望楼型と呼ばれるものと、層塔型と呼ばれるものがあります。望楼型は、1階又は2階建ての建物の屋根の上に、望楼を載せたものです。一方、層塔型は、四角形の階を重ねていくもので、階が上になるにつれて、広さがだんだん狭くなる、寺の五重塔に近いイメージです。

層塔型は、1階から最上階まで形が同一なので、一階部分が綺麗な方形になっている必要があり、1階が設置される天守台も綺麗な方形である必要があります。しかし、石垣技術が未熟なうちは、そのような方形の天守台を築けなかったため、いびつな形の天守台の上に、いびつな形の建物を建て、その上に望楼を載せて天守を作っていました。
つまり建物がいびつでも、屋根の形状等を調整すれば、望楼を置くことができたようです。また、初期のものは望楼が小さいですが、後には、ぱっと見ても望楼型なのか、層塔型なのかわからないくらい大きな望楼も建てられました。

このように、まず望楼型が普及したため、建造時期が関ヶ原前後の天守、例えば岡山城(岡山県岡山市)、丸岡城(福井県坂井市)、姫路城(兵庫県姫路市)、松江城(島根県松江市)等が望楼型です。一方、層塔型には、名古屋城(愛知県名古屋市)や、宇和島城(愛媛県宇和島市)、弘前城(青森県弘前市)があります。

望楼型の松江城天守(2010年9月)

層塔型の宇和島城天守(2013年12月)

また、天守には、建設時点から現在まで保存されているものと、それ以外のものがあります。江戸時代かそれ以前に建設され、現代まで保存されているものを「現存天守」と言い、弘前城、松本城(長野県松本市)、犬山城、丸岡城、彦根城、姫路城、備中松山城(岡山県高梁市)、松江城、丸亀城(香川県丸亀市)、松山城、宇和島城、高知城(高知県高知市)の天守がそれに当たります。これらは、「現存十二天守」と呼ばれ、うち、松本城、犬山城、彦根城、姫路城、松江城が国宝指定されて「国宝五天守」と呼ぶことがあり、それ以外は重要文化財指定されています。

一方、現存天守以外は、明治以降に、観光客誘致・町おこし等の様々な目的で建てられた天守です。外観だけでなく、図面等に基づき構造まで限りなく復元した大洲城(愛媛県大洲市)天守や、初めて建築基準法の適用除外を受けて木造で復元された掛川城(静岡県掛川市)天守、外観だけを似せて鉄筋コンクリート構造で建てられた名古屋城天守といったものから、そもそも天守があったかどうか怪しいのに天守を建てたり、観光目的で天守風の施設を建てているものまであります。

この辺りは、エピソードに事欠かないのですが、たとえば、錦帯橋と天守の景色で有名な岩国城(山口県岩国市)の現在の天守は、戦後に建てられた際に、麓からの見栄えを重視して、本来の天守台からずらして建築されています。また、掛川城では、地元の悲願であった天守の復元が、掛川にお住いの一私人から5億円の寄付がなされたことで叶ったというエピソードがあります。


〈参照文献〉
『城のつくり方図典』三浦正幸著、小学館、2005年


〈執筆者プロフィール〉
日野真太郎(ひの しんたろう)
弁護士。1985年福岡県生まれ。幼少時を中華人民共和国北京市で過ごし、東京大学法学部、同大学法科大学院、滋賀県大津市での司法修習を経て、2012年より東京で弁護士として執務。企業間紛争解決、中華圏を中心とする国際法務全般及びスタートアップ法務全般を取り扱う。趣味は城巡りを中心とする旅行で、全国47都道府県を訪問済。好きな歴史上の人物は三好長慶と唐の太宗。

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