アメリカでは、学校の卒業式が5月から6月にかけて行われる。今年はCOVID-19の影響で、州の方針や地域の状況、学校の考えなどに基づいた様々な形式で開催されている。
例えば、ソーシャルディスタンスを確保するために参加者数を制限した小規模形式や、自宅から参加するバーチャル形式のほか、車社会ならではのドライブインシアター形式、車が数珠つなぎになるパレード形式(特設野外ステージで卒業証書を受け取るために、そこへ向かう生徒を乗せた車が行列をつくる)などが今のところ多い。車には装飾が施されているものもあれば、何もなされていないものもある。個性が表れているマスクをしている学生もいれば、一般的な白いマスクをつけている卒業生もいる。
地域の特徴を生かして、スキー場で行ったコロラド州の学校もあり、リフトに乗って山頂へ行き、スキー板の端に取り付けられたバスケットから証書を受け取るという楽しみも盛り込まれていた。モータースポーツで有名な「インディアナポリス500」のレースコース上で証書を授与したインディアナ州の学校もあった。生徒の98%が貧困層家庭で育つオハイオ州の学校では、数ヶ月かけて校長が各生徒の自宅まで卒業証書を届け、一人ひとりと会話を交わしている。
今年卒業するすべての高校生とその家族に向けたバーチャル卒業式『Graduate Together 2020』も行われた。民間の教育変革推進団体、バスケットボールのレブロン・ジェームズ選手が創設した教育財団、エンターテイメント業界基金など、業界を超えた組織がコラボレーションしたこのイベントには、アスリートやTikTokスターから、オバマ前大統領まで幅広いゲストが登場した。その模様は11のテレビ局と20以上のビデオ、ソーシャルメディアプラットフォームで同時放送・配信された。
日本人の目から見ると、「なにか他の人とは違うことを試そう」「人と違っていて良い」ということが前提になっていると感じられる出来事が、アメリカではよく見られる。その分、完成度が低かったり、効率が悪かったり、統一性がなかったりするが、それはさほど重要視されないし、新しい発見をすることや、独自の意見を持つこと、それを相手に説明、説得する能力の方がより高く評価される。
こちらで子育てをした知り合いの日本人によると、このような人格を形成する環境は幼稚園からすでに始まっているそうだ。先生からの質問に答える場合は、まだ他の園児が答えていない内容であることが条件だという。その方の5歳の息子さんが4針縫う怪我をした時、幼稚園の先生はまず、「怪我をしたんですね。どうしますか?」と本人に尋ねたそうだ。自分で考え、自分の意見を持つことを促す環境は、このような非常事態であっても、5歳児に対してであっても損なわれることはない。
『Graduate Together 2020』で印象的だったのは、親が子供から学んだことを話すコーナー。親と子という関係に関わりなく、一人の人間がもう一人の人間について意見を述べていた。ほかにも、あるコメディアンが学校制度についての問題点を挙げ、変える必要があると指摘するコーナーなど見所は盛り沢山だった。
COVID-19の影響で4,000万人以上が失業中であるこの国には、進学を諦めたり、就職の目処が立たなくなった高校3年生は少なくない。その経験をそれぞれの生き方に反映させて個性を磨いた彼らに、撮影現場で出会う日も近いだろう。
執筆者プロフィール:
川出 真理(かわで まり)
映画・ドラマ監督。日本のコンサート業界でプロモーターとして従事した後、2007年に渡米し、ニューヨークのデジタルフィルムアカデミー卒業。監督・脚本を務めた映画『Seeing』でロサンジェルスムービーアワードのベストエクスペリエンス映画とベスト撮影賞をダブル受賞。アメリカ国内外の映画祭への正式参加多数。ドラマでは、コメディ『2ndアベニュー』に引き続き製作した最新作の社会派ドラマ『報道バズ 〜メディアの嘘を追いかけろ〜』がAmazon他で配信中。