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発言

N.Y. 点描 no.9
〜世界がかつてなく共感し合える瞬間〜

川出 真理

今年は、12月になってようやく雪が降った。初雪には毎年心踊らされるが、今年はチラチラ降る雪を見てなんだかホッとした。次々に街を彩るホリデーシーズンのデコレーションやビルや家を飾るイルミネーションは、私を笑顔にした。

激動の年の終わりにいつもの冬がやってきたことで、変化しないものの存在に安心させられる一方で、「今年起こったことは夢じゃない、現実だよ」と言われているようにも感じた。

ストリートで売られているクリスマスツリーの木(生の木)

交差点のちょっとしたスペースに飾られたクリスマスツリー

近くの大きな集合住宅の玄関前

年末年始は日本で過ごすことの多い私だが、今年はコロナウイルスが流行しているため、ニューヨークに滞留。周りの友人たちもそれぞれの場所に留まり、ホリデーを迎えている。

映像プロダクションを経営するアンドリューは、例年は生まれ故郷のテキサスに帰るが、今年は倉庫にしまってあったクリスマスツリーを出してきて、ニューヨークでガールフレンドと年末を過ごしている。

テレワークが始まってすぐに、パートナーの実家のあるペンシルベニアに引っ越した建築士のクリスは、まだニューヨークに戻る様子を見せていない。お金を節約するために、州北部に住む両親と同居を始めた翻訳会社勤務のケルシーとその子どもも、そこに留まったまま親と一緒にホリデーを祝っている。

一年前に大学を卒業し、医科大学院への進学を希望しているライラは、近くに住む家族と一緒にいることが多くなって、すっかり退屈しているようだ。オンラインクラスを受講せず学校に通いたい彼女は、願書の提出をまだ見合わせている。「生まれて初めて人生の予定が狂った」、「パーティなしの大晦日は大晦日じゃない」が彼女の最近の口癖。

コロナ禍の影響で失業したダニエラは、パンデミック前に別居していたパートナーと子どもの元へ戻り、経済的負担を減らしながら、学校へ通えず在宅中の子どもの世話をしている。「同居、どう?」と聞くと、「思ってたほど悪くないよ」という返事。思いがけない家族そろっての年末年始を楽しもうとしているようだ。

パンデミック中に重い心臓の病気になったニコは、今も入院中。家族が近くに住んでおらず、面会の時間も人数も厳しく制限されているため、友人の一人が度々、必要なものを持ち込んでいる。「スマホに届く家族や友達からのメッセージがなかったらヤバかった」と言うニコに、仲間たちは毎日のようにメッセージを送っている。

私のニューヨークの友人らの「留まる」様子は、世界中の人々がそれぞれの場で留まっている様子と似ているだろう。これは、過去の自然災害や世界大戦では訪れなかった、史上最大規模で共感し合える瞬間に私たちはいるということでもある。

にもかかわらず、世界の人々が直面している社会の“分断”は広がる一方だ。良質の映画やドラマ、小説が示すように、互いに共感できることは最も貴いことのひとつであると、全世界で声をかけあって再確認するときなのかもしれない。




〈執筆者プロフィール〉
川出 真理(かわで まり)
映画・ドラマ監督。日本のコンサート業界でプロモーターとして従事した後、2007年に渡米し、ニューヨークのデジタルフィルムアカデミー卒業。監督・脚本を務めた映画『Seeing』でロサンジェルスムービーアワードのベストエクスペリエンス映画とベスト撮影賞をダブル受賞。アメリカ国内外の映画祭への正式参加多数。ドラマでは、コメディ『2ndアベニュー』に引き続き製作した最新作の社会派ドラマ『報道バズ 〜メディアの嘘を追いかけろ〜』がAmazon他で配信中。

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