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“混迷の震源地”ニューヨーク報告②
老民主党候補を支える「AOC」旋風の正体~大統領選2020

萩原 豊

もう終わった候補だと考えていた。

年齢は78歳、10月初旬に心筋梗塞で倒れて入院。広大な国土を駆け回る、激しい選挙戦には耐えられないと有権者も考えるだろう、そんな思いを抱えて同月19日、アメリカ大統領選挙の民主党候補、バーニー・サンダースの復帰集会に向かっていた。  

良く晴れた土曜日の昼。マンハッタンから川を渡ったニューヨーク市クイーンズに向かう地下鉄のホームは、人で埋め尽くされた。地上に出ると会場の公園に歩いて向かう人波が見える。15分ほどで公園の入り口が見えたが、誘導員が列に並べと言う。こうした集会では、通常、ジャーナリスト用に特別の入場口と取材ブースを設けられる。今回は、雰囲気を直接感じるためにも、あえて一般の支持者と同じ列を選んだ。

サンダースの復帰集会に向かう人々の行列

ところが、その列があまりに長い。4、5キロメートルにわたっていた。カジュアルな服装の若者達から中高年の夫婦、家族連れもいる。人種も多様だ。なかには、サンダースの顔が印刷されたシャツを着た人も……。並んでいる途中、大きな歓声があがった。黒い大型車から出てきた巨漢は、あのマイケル・ムーア監督だった。監督も以前からサンダース支持を表明している。

集会に現れたマイケル・ムーア監督(写真中央)

待つこと2時間近く。ようやく集会場の公園に入ることができた。すでに誰かが演説しているが、ステージが全く見えない。人々の間を縫うように前へ前へと出ると、遠い先に小さく演台が見えた。以前、取材した民主党候補、エリザベス・ウォーレンの集会にも劣らない人の数と熱気。それが最高潮に達したのは、サンダースの48歳年下、「AOC」の登場だった。

■AOCが語った身の上話

「労働者階級の革命をアメリカに!」 
絶叫調の甲高い声が響く。それに合わせて歓声と拍手が止まない。細く小さな身体に躍動感が漲る。

「AOC」こと、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス、30歳。1年ほど前に、史上最年少の連邦下院議員に選出され、一躍「民主党のスター」になったのは、日本でも伝えられている通りだ。大統領選の指名争いで、彼女がどの候補を支持するのか、若者層の動向を左右するだけに注目されていた。この日に正式に表明した結論は、サンダースだった。 

「バーニー・サンダースという名前を聞いて初めて、ヘルスケアや住宅、教育、賃金に自分が値する、人間としての固有の価値に疑問を抱き、それを主張し、認識できたのです」
当初は、明るい話題が少ない民主党で、若く元気の良い女性議員がもてはやされているだけではないか、そんな印象も正直に言えばあった。彼女の演説を聴くのは、これが二度目だったが、何が人々を魅了するのか、じっくり耳を傾けてみた。

この日の演説は、こんな身の上話から始まった。 
「去年、去年の2月です、私はマンハッタンのダウンタウンで、ウエイトレスとして働いていました。不法滞在の労働者たちと一緒に、です。彼らは、最低限の賃金を貰うために、より懸命に、最も頑張って働いていました。私は1日12時間、きちんとした休憩無しに立って働いていました。医療保険もありませんでした。生計を立てるだけの賃金はもらえませんでした。そして、私は、自分が何も価値がない、とまで思っていました。なぜなら、ここにいる、そして、この国のあらゆる場所にいる労働者たちに、よくある話だからです」

さらに続く。母がプエルトリコ生まれで、家族は、ベッドルームが1つしかない、ブロンクスのアパートで、床にマットレスを敷いて暮らしたこと。ここから、アメリカンドリームが始まったこと。ブロンクスでは、教育の不平等に直面したこと。18歳の時に父が癌で亡くなったこと、教育ローンを抱えていたこと……。 

話の節目に、こんなメッセージを織り込む。
「あなたたちが、人間として生まれ持っている意義や価値が、他の誰かが充分支払わない収入に依存してしまっているのです。しかし、私たちがここにいるのは、こうした状況を根本的に変えるためなのです」

■なぜAOCが光るのか?

語り口も良い。つい引き込まれるリズムや抑揚もある。
だが、彼女の“演説のうまさ”ばかりが、聴衆を魅了しているとは思えない。

議員になる前のAOCが置かれていた環境こそが、アメリカが抱える問題そのものなのだ。彼女の演説から、その課題を抽出すれば、医療保険、最低賃金、教育不平等、住宅問題、奨学金、移民問題などが挙げられる。「世界一の豊かな国」であるはずの国だが、これまでも問題が指摘されながら、一向に改善していない、あるいは悪化している問題も多い。演説を聴きながら、私は支持者の群衆の間に立って周りを見渡すと、目に入ったのは、彼女の言葉に聞き入り、うなずき、歓声を上げる若者たちだった。AOCと自分の境遇を重ね合わせていたのだろう。彼女であれば、私たちの苦しみをわかってくれる、と。

AOCが光って見えるのは、多くの政治家に、この“当事者性”が欠けているからではないか。民主党支持者のなかでも、民主党が「金持ち、エリートの党」に変わってしまったという批判がある。裕福な家庭で生まれ育ち、不自由ない暮らしのなかで、エリートとして育てられた政治家では、社会的に弱き立場に置かれている“当事者の視座”を持ちにくいだろう。もちろん、問題全ての当事者になることは不可能だ。しかし、自分の人生で直面する重い社会課題が一つでもあれば、その延長線上に視座を持てよう。

日本でも、そんな目線で政治家や候補者を見るのはどうだろう。演説のうまさや言葉の強さ、見た目ではなく。この人は、私たちに、心を配れる人だろうか?当事者の目線に立って、政治、社会を、より良い方向に変えてくれるだろうか?

■「社会主義」が語られる事態に

集会の後、サンダースは徐々に支持率を回復させた。1カ月後には一部調査で、大きく差をつけられていたジョー・バイデン、ウォーレンに追いつくまでになったのだ。AOCの支持表明が大きな要因と見られる。

民主党内の中道と左派との間の溝はさらに深まっている。それは、「既得権益層を守るのか、そうではないか」という問いかけでもある。
「これは、私だけの問題ではないと知っています。私たち全員の物語なのです。企業の利益を第一にする制度や政治の考え方を根本的に変えなければならないのです」

AOCが「根本的」と言っているのは、「労働者階級による革命」だ。AOCもサンダースも、「民主社会主義者」を堂々と名乗る。資本主義陣営の盟主だったアメリカで、「社会主義」が、まともに議論される時代になろうとは驚くばかりだ。オバマ前大統領も、「この国は革命よりも改善を求めている」と極端な左寄りに振れつつある候補者たちに警告を出した。

だが、こうした社会主義的な政策を、2020年の大統領選の主たる争点にさせている、アメリカ社会の実態に目を向けなければ、と考える。それは日本の未来像にもなりかねないからだ。



執筆者プロフィール:
萩原 豊(はぎはらゆたか)
テレビ報道記者。1967年長野県生まれ。東京大学文学部を卒業し、TBS入社。社会部、「報道特集」「筑紫哲也NEWS23」、ロンドン支局長、「NEWS23クロス」特集キャスター、社会部デスク、「NEWS23」編集長、外信部デスクなどを経て、現在、ニューヨーク支局長。特別番組「ヒロシマ~あの時、原爆投下は止められた」(総合演出・取材指揮)で文化庁芸術祭テレビ部門大賞。アフリカなど40ヵ国以上を取材。東日本大震災では直後から福島を取材。

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